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元報道記者の弁護士が提言 メディアの動きを先読みする広報になる!

もしもあなたの会社の社員が逮捕されたら、記者と広報はどう動く?

鈴木悠介(西村あさひ法律事務所・元TBSテレビ記者)

テレビ局報道記者出身の弁護士が法務とメディア、相互の視点から特に不祥事発生時の取材対応の問題点と解決策を提言します。

前回に続き、従業員がホワイトカラー犯罪(*1)と呼ばれる犯罪を起こしてしまった場合に、メディアにどのタイミングでニュースとして取り扱われるか、各タイミングで企業にどのような広報対応が求められるかについて解説します。前回は刑事事件の具体的な流れを示したフロー図に沿って、(1)捜査開始から(3)被疑者の逮捕に至るまでの刑事手続の流れを取り上げました。今回は、このフロー図の(4)検察官への送致(いわゆる「送検」)から(9)(10)起訴・不起訴の場面を扱います。

(*1) 企業を舞台として、比較的社会的地位の高い人々が、その地位や権限を利用し、主に経済的な利益の獲得を目的として行う犯罪類型のこと。(1)横領、詐欺、背任など、企業が被害者的な立場に置かれる犯罪(2)贈収賄、脱税、カルテル、インサイダー取引など企業が加害者的立場で関与している犯罪とに分類される

なお、今回も前回に引き続き「建設会社のA社がX部長を中心に、入札情報を教えてもらう見返りに東京都のY係長に対して、過剰な接待や金品の供与を繰り返していた」という贈収賄事件を題材として話を進めることにします。

図1 刑事手続の大まかな流れ

カメラに狙われる(4)被疑者の送検

刑事事件の一連の流れの中で報道が最も過熱するのは、(3)被疑者の逮捕のタイミングです。各メディアはこのタイミングに合わせて、収集してきた情報や、被疑者の隠し撮り映像、直撃インタビューを一斉に報道します。

刑事事件のプロセスとしては(3)被疑者が逮捕された場合、警察は逮捕から48時間以内に(4)被疑者の身柄を検察庁に送致(いわゆる「送検」)しなければならないというルールになっています。

警察は被疑者の特定や証拠の収集などの捜査は行いますが、被疑者を起訴する(裁判所に対して特定の刑事事件の審理・判決を求めること)権限は持っていません。そこで警察は検察官に起訴するかどうかの判断をしてもらうために、捜査した事件を被疑者の身柄とともに検察庁に送るのです。

こうした送検は通常、逮捕の翌日か翌々日に行われます。逮捕された被疑者は基本的には送検されるので、送検自体にそこまでのニュースバリューはありません。ただし事件の規模や世間の関心の大小によっては、ニュースとして取り上げられることもあります。というのもメディアにとって、送検は被疑者の直近の姿を映像で捉える数少ないチャンスだからです。

被疑者は送検時、検察官の取調べを受けるために、警察の留置場から護送車で検察庁に向かいます。皆さんもテレビニュースなどで、ジャージ姿の被疑者が警察の建物から出てきて、警察官に引き連れられて護送車に乗り込む映像を一度は見たことがあると思います。記者は関係者から護送のタイミングを事前に教えてもらって、あらかじめテレビカメラを配置しておくのです。

今回のケースのX部長やY係長の送検ですが、東京都の職員に対する贈賄事件というだけでは、それほど大きく取り扱われることはないかもしれません。ただしX部長やY係長の人となり、接待の内容、金額の多寡などによっては、大きく取り扱われる可能性があります。

(5)検察官による勾留請求の流れとは

勾留とは、逮捕に続いて被疑者の身柄を拘束する処分です。メディアの多くは「勾留」ではなく「拘置」という言葉を使いますが、メディア独自の言い回しであって法令上は不正確な用法です。

検察官は送検から24時間以内に、被疑者の勾留を請求するかどうかを判断しなければなりません。検察官は被疑者を起訴するかどうか判断するにあたって、引き続き被疑者の身柄を拘束した上で、補充捜査を行うことが必要と考える場合には(5)勾留請求を行います。この勾留は、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当の理由に加えて ...

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