テレビ局報道記者出身の弁護士が法務とメディア、相互の視点から特に不祥事発生時の取材対応の問題点と解決策を提言します。
前号では、危機管理広報に関する特集内で不祥事が発覚した後、すなわち「有事」における社内広報の重要性について取り上げました。引き続き今回も社内広報の重要性をテーマとしますが、今回は不祥事を防ぐために、「平時」において社内広報が果たすべき役割についてお話しします。
「不正のトライアングル」とは
人が不正に手を染めるメカニズムについては、「不正のトライアングル」という考え方が古くから知られています(図1)。これはアメリカのドナルド・R・クレッシーという犯罪学者が提唱した考え方で、人は、(1)動機(2)機会(3)正当化という3つの要素が揃った場合に、不正行為に手を染めてしまうという仮説です。
クレッシーは従業員による横領の事案を数多く研究・分析した上で、「不正のトライアングル」という考え方を提唱するに至りました。この考え方は横領の事案に限らず、一般的な企業不祥事の分析にも役立つと考えられています。
ここで「不正のトライアングル」の3つの要素について、横領の事案を例として説明します。まず(1)「動機」とは、不正行為を実行することを欲する主観的事情のことです。例えば、従業員がギャンブルに大金を注ぎ込み ...
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