株主総会を控え、大森先生のもとを訪れた広子たち。選任予定の社外取締役に向けたオリエンテーションを行うにあたり、中期的な「稼ぐ力の向上」を担うともされる社外取締役の役目まで、話は及んだ。
広子:稼ぐ力の向上ということですが、その指標のひとつが「自己資本利益率(ROE)」ですか。
大森:そうだね。外国人投資家が増加するのに伴い、日本企業のROEが欧米企業に比べて低い、という批判が増加したことでROEが意識され始めたんだよ。コーポレートガバナンス・コードでも【原則5-2】で「収益力・資本効率等に関する目標を提示し、その実現のための具体策を」といったことが示されているね。
東堂:いわゆる伊藤レポートで「ROE 8%を最低限の目標値」としたことの影響も大きいと聞いたことがあります。
大森:そうだね。稼ぐ力の代表的な指標になった感があるね。そのROEを3つの経営指標に分解して考える"デュポンシステム"は知っているかい?
広子:なんとなく聞いた覚えはあります。ただ、しっかりと理解しているわけではありません。
大森:オッケー。ROEは、売上高利益率と総資産回転率と財務レバレッジの掛け算で示されるんだ。
広子:なるほど、掛け算だから、各指標を向上させればROEは向上するという図式ですね。
大森:いいねえ。その通りなんだけど、半分正解、半分不正解ってところかな。売上高や総資産は、分子と分母にそれぞれ出てくるから、そう単純ではない。ただし、分解すると、それぞれを改善する施策が考えやすくなるという観点で有効だと思うんだ。例えば、総資産回転率を上げるためには?
広子:そうですね。不稼働資産や収益性の低い資産を売却して、総資産を圧縮するという施策ができると思います。
東堂:ええっと……。さらに、得た資金で自社株買いをすれば、自己資本が抑えられるので財務レバレッジも調整できます。
大森:いいねえ。ROE向上のため何をしたらいいか、具体論への出発点として3指標の整理は有効だろう。何が不稼働資産なのかといった具体的な議論につながればいいな ...