2005年以来のリーグ優勝。本記事の執筆者である関西大学 名誉教授の宮本勝浩氏は、「今回の阪神優勝の経済効果は800億を超える」という推定を発表した。なぜ、阪神タイガースの優勝はここまでの消費促進に寄与するのか。また、18年前の優勝時と今回では「消費意欲の促進」という切り口においてどのような違いが見られているのか。本記事では、実際に推定を発表した宮本氏自身が、約872億という数字に至った経緯や「阪神タイガースの優勝が消費意欲に寄与する理由」を解説する。
2023年の阪神タイガースは、2005年以来18年ぶりの「アレ（優勝）」を達成しました。大勢の阪神ファンはまだ「阪神（半信）半疑」であるかもしれません。阪神の優勝は関西地域を中心に日本中に膨大な消費の拡大を生み出し、大きな経済効果をもたらしました。その裏側をちょっと覗いてみることにします。
そもそも経済効果とは何を指しているのか
「経済効果（専門的には「経済波及効果」と言う）」とは、「直接効果」、「一次波及効果」、「二次波及効果」を合計したものです。
「直接効果」とは、例えば球場に応援に来たファンがカレーライスを食べたり、阪神のグッズを買ったりすると、レストランのカレーライスの売上やグッズの売上が上がるようなことを指します。ファンが球場でカレーライスを食べたり、グッズを買うと、カレーライスの材料である米、肉、玉ねぎ、人参などを販売する米穀店、精肉店、青果店、スーパーマーケットなどの売上も、さらにユニフォーム・帽子などグッズをつくっている企業の売上も増加します。それらのカレーライスの原材料の売上増加額や、グッズを作っている企業などの原材料の売上増加額を「一次波及効果」と呼ぶのです。
また、「二次波及効果」とは、直接効果、一次波及効果に関係した企業、店舗などの売上が増加すると、それらの企業や、店舗の経営者、従業員の所得などが増加。その所得の増加額のかなりの部分が消費に向けられます。その消費増加額のことを「二次波及効果」と呼ぶのです。この3つの効果を「産業連関表」を用いて計算しますが、それらの合計を「経済効果」と呼びます。
経済効果が大きい場合、関連会社は「儲かりましたね」と言われることがありますが、経済効果の金額は「総売上額」のことで、儲けはこの経済効果の金額から原材料費、人件費などを差し引いた金額になります。ですから「儲け」は経済効果の一部にすぎないのです。
阪神優勝の直接効果 昨年比較で見えた数字
阪神優勝の経済効果とは、優勝した2023年と優勝できなかった2022年との経済効果の比較を行って、その差額を今年の優勝の経済効果と考えて分析をしたものです。そして、阪神がクライマックスシリーズに出場して日本シリーズに出場する前までの経済効果を推計しています。ここからは分析から導き出した金額の推計について、順を追って説明します。
1. 直接効果の項目と金額
阪神が優勝した時の直接効果の項目と金額は次のように推定します。
1 球場に来た観客の消費増加額
2022年の阪神の主催ゲーム試合における観客動員数は、1試合平均で36,370人、合計261万8,626人でした。さらに、2023年の8月28日までの主催ゲームでの観客動員数は、1試合平均で40,679人でした。
これを基にして推計すると、今シーズンの観客動員数は、313万2,283人となり、昨年より51万3,657人の観客増加が見込まれます。そして、球場に足を運んだ観客は、交通費、入場代、飲食費、グッズ代、雑費などで今年は1人平均で約11,000円を消費すると推定します。
その結果、球場に来た観客の増加する消費金額は約56億5,023万円となります。
2 阪神ファンのビヤホール、居酒屋、自宅などでの「飲み代」の増加額
デイリースポーツの吉田風記者が2020年5月19日に書いた「阪神ファンは日本に何人いる?」の記事によると、阪神球団のネット調査に基づいた数値では「2015年度の阪神ファンは930万～1,000万人である」と推定されています。本文では平均値の約965万人と仮定します。これに基づいて阪神ファンで飲酒するファンの数を2017年5月31日に日本酒造組合中央会が発表した飲酒率のデータを用いて推計すると、阪神ファンで飲酒の習慣のあるファンは約323万4,632人となります。
そして、R＆C株式会社がアイブリッジ株式会社に委託した調査（2023年7月14日更新）と、新生銀行グループが発表した「2021年サラリーマンのお小遣い調査結果について」の金額の平均値をとると、1人当たり1回の飲酒金額は3,350円。さらに、優勝によって盛り上がった阪神ファンは…
