生活者の移動が制限されている今、どのような消費行動が生まれているのか。なんとくなく行われていた行動は、意識をして行われる行動になっている。本稿では駅に焦点を当てて、駅消費研究センター長である著者が解説する。
本稿では、「移動と消費」といっても、移動全般ではなく、主に首都圏における鉄道利用と駅周辺で生じる消費を題材にしています。こうした前提のもと、移動と消費の変化を語るためには、その論理をあらためて確認することからスタートすべきと考えました。移動と消費の論理の背景には、2つの構成要素があります。ひとつは、首都圏における通勤・通学を基盤とした流動人口の大きさという「量的な機会」です。
当社の「MEDIA DATA2021」でも、首都圏70キロ圏内の鉄道利用者は約1730万人と推計され、この数値はオランダの人口(2019年9月オランダ中央統計局によると人口1738万人)に匹敵します。人口減少が叫ばれる中にあっても、ヨーロッパのひとつの国と首都圏の鉄道利用者がほぼイコールなのです。
また、もうひとつの構成要素として、「質的な機会」が挙げられます。この「質的な機会」の源泉となるのは、「駅及び駅周辺の購買行動の非計画性」と「エキシューマー・インサイト」です。駅及び駅周辺の買い物行動の大半は移動中に決められることが多いという特徴があります。
「エキシューマー・インサイト」とは、購買の有無にかかわらず、駅や駅商業施設を何らかのかたちで利用する人=「エキシューマー(元々は「駅のコンシューマー」から生まれた造語)」のTPOの移り変わりによって生じる、その時、その場、その状況ならではの「心の声(本音)」といっていいでしょう。こうした心の声が消費を駆動します。
例えば、Beforeコロナにおいて、ある女性会社員が、1週間の仕事を頑張った「自分自身へのプチご褒美」として、金曜の帰宅途上の夜、プレミアムアイスを購入する。あるいは、妻子をもつ男性会社員が会社での嫌なことを自宅に持ち込まずに「気持ちをスイッチ」するために駅ナカのカフェに立ち寄る⋯⋯といったインサイトが代表的なものでした。
このように、Beforeコロナでは、移動人口の大きさと購買に適した豊富な状況の「積」によって安定的な消費が形成できるという論理がありました。しかしながらWithコロナにおいて、通勤や通学が制約される状況にあっては、「量的な機会」の伸長はあまり期待しにくいといえます(図1)。
他方、「質的な機会」は、「人ベース」で考えれば「異なる消費文脈」となって立ち現れてきます。具体的に言えば、先ほどの女性会社員が、Withコロナにおいては...