第97回天皇杯全国サッカー選手権大会でJリーグクラブと互角に渡り合い、サッカー界の話題を集めたいわきFC。7月には、国内でも例を見ない約22億円をかけた商業施設併設型のクラブハウスをオープンした。スポーツビジネスで成果を出し、地域貢献するクラブの集客法とは。
商業施設併設型クラブハウスをファンとの最初の接点に
いわきFCは、福島県いわき市を本拠地とするサッカークラブ。現在は福島県社会人サッカーリーグ1部に所属している。各都道府県リーグは、J1リーグを頂点とする日本サッカーのピラミッドで見ると上から7番目にあたる。
いわきFCの運営母体であるいわきスポーツクラブは、スポーツ用品ブランド「アンダーアーマー」やスポーツサプリメントの製造・販売を行うドームの100%子会社だ。
ドームが2015年12月11日にいわきスポーツクラブを設立し、すでにあった同盟の社団法人からチームを譲り受け、現在の体制となった。
ドームは東日本大震災からの復興を目指す地域への支援と活性化を目指し、物流センター「ドームいわきベース」を2015年12月に建設した。
同社は、スポーツを通じて社会を豊かにし、スポーツを産業化したいという考えを持っており、いわきFCはそのチャレンジのひとつとなっている。
いわきスポーツクラブの代表取締役に就いた大倉智氏は、2017年からいわきFCの総監督を兼務する。同氏は現在の課題をこう話す。
「いま、ホームグランドであるいわきFCフィールドで県リーグの試合を行うと、400人~500人にお越しいただけます。試合以外のイベントを行うと300人しか集まらないこともある。しかしいわきFCフィールドではありませんが、天皇杯でJリーグクラブが相手だと2000人~3000人の観客がくることもある。約1200人いるファンクラブ会員が試合への集客になかなかつながっていないことも課題ですが、ファンクラブ会員自体の数が伸びていないことも懸案です」
ファンクラブの1200人という会員数は、同じくJリーグ入りを目指す日本フットボールリーグ(JFL)に所属する地方クラブが抱える会員数は800人程度。いわきFCのそれは、少ない数字ではない。
また、ソーシャルメディアのフォロワー数もJ2の中位クラブに匹敵する数を集めており、クラブがドームの支援で持っている放送局「いわきFCTV」の無料放送は3000人近くが視聴し、これはB.LEAGUEの視聴者数に匹敵する。
いずれもクラブが置かれる状況では十分とも言えるが、集客力を向上させるには、会員数の増加も必要だ。
いわきFCは、クラブとして掲げる3つのビジョンのひとつに「いわきを東北一の都市にする」を持つ。ことし7月にはいわき市やいわき商工会議所を中心とする関係団体と「スポーツの力でいわき市を東北一の都市にする。夢・感動・未来づくり共同宣言」を行った。
地域をあげてクラブを支援する機運は高まっており、クラブが広く市民に知られている実感はあるが、認知は行動につながっていない。
これまで、いわき市にはプロスポーツチームがなく、お金を払ってスポーツを見るという文化的な背景が希薄だった。
「35万人のいわき市民にクラブの存在自体は知っていただけているという実感はありますが、チケット代を払って試合を見て、ファンクラブの入会にまでつなげられていないのが現状です」
そこで、試合観戦やファンクラブ入会につながる、クラブとの最初の接点として期待されているのが6月に開業し、7月15日にグランドオープンした「いわきFCパーク」だ。
同施設は、練習場に商業施設が併設されたクラブハウスで、試合や練習の有無に関わらず、市民が訪れ、買い物や飲食を楽しむことができる。
この施設をきっかけに、クラブに触れ、試合を観戦し、ファンクラブの会員になってもらうという狙いだ。
年間27万人の訪問を目標とし、開業から1週間で約8000人の来場を記録、各店舗の売り上げも目標を平均30%上回るなど好調だ ...