ユニークかつ効果的なプロモーションを展開する企業のトップに、どのような視点で販促を考え、展開しているのかを聞く。

代表取締役社長 髙津克幸氏
1970年生まれ。東京出身。青山学院大学卒業。1993年高島屋横浜店入社。1996年に高島屋を退社し、にんべんに入社。商品部、営業部、総務部、副社長などを経て、2009年4月に代表取締役社長に就任。
だしが飲める店が好調 タイ・バンコクにも出店
にんべんは1699年(元禄12年)の創業以来、3世紀以上にわたって東京・日本橋で事業を行ってきた、かつお節専門店だ。
かつお節削り節「フレッシュパックシリーズ」や、醤油に天然だしを合わせた「つゆの素」などを開発し、ロングセラー商品として育てた。同時に、近年は「だし」をコンセプトにしたマーケティング施策を若い人たちに向けて展開し、企業全体の売り上げ拡大につなげている。
2010年にオープンした「日本橋だし場(NIHONBASHI DASHI BAR)」は、にんべんの新たなマーケティング施策の象徴的とも言える店舗だ。
料理に使う「かつお節だし」を1杯100円から販売し、スタンディング形式で飲んでもらう。だしのほか、月替わりのだしスープメニューやかつぶしめしといったご飯物、かつお節関連の商品なども扱い、だしの魅力を直接、消費者へ伝えていった。
その後「日本橋だし場」は店舗数を増やし、現在は羽田空港、海老名サービスエリア上り線、東京駅前の丸ビルをはじめ、海外のバンコク伊勢丹内にも出店し、合計6店舗を展開している(そのうち1店舗は、だしを生かした料理を提供するレストラン「日本橋だし場 はなれ」)。
店舗には20歳代からシニア層まで幅広い世代のお客さまが訪れて賑わっている。


日本橋だし場(NIHONBASHI DASHI BAR)
とりたてのだしを商品として提供する店舗として、オープン当初は大きな話題になり、店舗前には行列ができた。人気は今でも衰えず、老若男女が数多く訪れる。
消費者との接点がだしの認知を高める
「日本橋だし場」の企画段階では、だしが商品になるのか、社内でも議論になった。消費者に向けて、だしを無料でサンプリングすることはこれまでも行ってきたが、商品として販売したことはなかったからだ。
ちなみに、「日本橋だし場」のオープンと同時期に、味の素が東京・有楽町で「dashi Cafe」を開いたが、こちらはだしを無料で提供し、カフェ自体も期間限定のイベントとして展開したものであった。
「日本橋だし場」について、最終的に決め手となったのは「消費者との直接の接点を、より多く持とう」という、髙津克幸社長の考えも大きい。
というのも、にんべんはスーパーなどにおける家庭用や、業務用の販売が売り上げの9割ほどを占め、消費者と直接に接点を持つ場はあまり多くなかったからだ。
オープン当初は「だしを飲ませる店」という物珍しさもあり、広告展開は特に行わなかったにもかかわらず、メディアが取り上げたことなどで大きな話題となった。だしを取った経験がない消費者にとって、だしの味は新鮮な体験であり、店舗前には行列ができるほどの賑わいを見せた。
話題が一服した後も集客は安定して継続し、ことし1月には、1号店の「日本橋だし場」における、かつお節だしの累計販売数は75万杯を超えた。
「『日本橋だし場』をオープンしたことで、だしの認知度が高まり、消費者はだしに目を向けてくれるようになりました」と髙津社長は話す。
スーパーなどの売り場にはにんべんのかつお節やつゆの素などが並んでいるが、だしは置いていないことが多い。しかし「日本橋だし場」が注目されるにつれて、だし自体への注目度も、若い人を中心に高まっていった。
だしの魅力を広めるアンバサダーとアドバイザーのコミュニティー
2014年には、「にんべん だしアンバサダー」が誕生した。だしに関心を持っている、働き世代の女性たちが「だしアンバサダー」として、だしの魅力を広める活動を行っている ...