IDEA AND CREATIVITY
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青山デザイン会議特別編

Advertising is Copy?

大貫卓也、井村光明、進行:谷山雅計

2018年に「さけるグミ」で、TCCグランプリ、ACCグランプリ、カンヌライオンズ シルバーを受賞した井村光明さん。圧巻の作品集『Advertising is』でADCグランプリを受賞した大貫卓也さん。かつて博報堂で同じ宮崎グループ(宮崎晋さん)に所属していた二人が、TCC賞、ADC賞のグランプリを受賞し、コピー年鑑発刊記念として、初となるグランプリ対談が開催されました。進行を務めたのは、同じく宮崎グループに所属していた谷山雅計さんです。かつて同じチームで仕事をしていた大貫さんと井村さん。その時から長い年月を経て、今、2人は広告とどのように向きあっているのか。

今の広告はアイデアへの粘りが足りない

谷山:今回、僕が司会を担当させていただきます。理由は、博報堂時代に大貫さん、井村くん、そしてこの対談を企画した照井晶博くんと同じ宮崎グループに所属していたということ。そんな2人が2018年にTCC賞グランプリとADC賞グランプリを受賞し、今回の対談が行われることになりました。まず大貫さん、井村くんのグランプリ受賞作品「さけるグミ」について聞かせてください。

大貫:僕はこのCMすごく好きだったんです。なぜかと言えば、時代がどんどん変わっているのに、井村くんがずっと立ち止まっている、その感じが(笑)。たぶん、周りの環境がそれを際立たせているところがあると思うんです。世の中みんながお利口になって、ここまで時代の空気も変わっているのに、この感じをキープし続けているというのは貴重ですよ。ディスっているわけではなく、広告はその時代と環境の中でどう見えるかが大事だからね。

CMの世界では、ナチュラルなライフスタイルを送る外人さんの日常映像にアコースティックな音楽が流れているとオシャレな表現ということらしいし、ほかは全部チラシのような割り切った連呼CMばかりに感じます。広告を信じて、広告で本当にものを売ったり、世の中の空気を変えたり、そういう影響力があるものをつくるんだ!という熱がテレビから感じられない、というかCMの力をみんな信じていないでしょ。そんな中で井村くんがつくるCMは昔からずっと変わらない。それが今のテレビCMの風景の中で際立ってくるわけ。ディテールのしつこさや、練りこまれたドラマも実にバカバカしい。

谷山:最初に大貫さんがご覧になったとき、もういいよ、と映像を止めたと聞きましたが。

大貫:2話目まで見たときは、そこまで来なかったんですよ。でも、まとめて全シリーズ見たら、これでもかというダメ押しの波状攻撃がすごかった。井村くんが演出やキャスティングや曲など、どこまで確信犯でつくったのか、それが読めなかった。計算して落としているのか、ただお笑いだけを求めているのか、そのあたりを見極めるのが難しかった。

井村:お答えするのが恐縮なのですが、実はキャスティングはディレクターによるところが大きくて…。僕は出演者をオーディションで選ぼうとしていたんですが、なかなかしっくり来なかった。小澤征悦さんは佐藤渉監督の指名です。

大貫:井村くんはこの企画ができたとき、こんなに当たると思った?

井村:思っていませんでした。最初の2話は短いグミを食べる彼氏と長いグミを食べる変な人がさいて食べるカットだけだったので、本当に上手くいくのか、すごく不安で。オーディションでいいキャストが見つからなかったのでやめようかと思ったのですが、小澤さんが出演してくれることになり、なんとか大丈夫かなという感じで進めました。

大貫:面白いバカたれCMがたくさんあった時代はもういいよって、うんざりしていたんだけど、そういうものが絶滅した今だからこそ、「さけるグミ」のCMは貴重種なんだよね。広告ってそういうものでしょう、周囲との対比でよく見えたり、見えかなったりするわけだから。もしこれがビッグクライアントだったら、また影響力が違っていたかもしれないよね。味覚糖がビッグクライアントじゃないと言っているわけではなくて、昔から面白ければいいというCM企画があまり好きではなくて、UHA味覚糖というクライアントの、そのブランドなりの戦い方をしているかどうかを意識しているかが大事だから。

井村:オリエンは、ニッチな商品をメジャーに見せてほしいということでした。2年間、短いグミを担当していたのですが、それがさらにニッチになって、40センチもある長いグミとして発売する。それを企画にしようとすると、どうしても子どもっぽくなってしまう。それをもっとメジャーな感じに引き上げたいと思ってトライしたものです。

大貫:なるほど。子どもっぽさを無くす、それは面白いよね。この商品をメジャーに見せること自体がそもそもギャグでありアイデアだったわけだ。

谷山:ここで井村くんがどんな広告を作ってきたか振り返ると、入社2年目に担当した「Jリーグカレー」(永谷園)は、男の子がモーフィングでラモスに変わるというCMでTCC新人賞を受賞。そして、もう1本は大貫さんがCDの日清食品「カップヌードルMISO」でジェームス・ブラウンを起用して、♪ミソンパ!と歌わせたものです。その頃の井村くんは大貫さんから見て、どうでしたか。

大貫:この頃の僕らは常に面白いことだけを考えさせられていました。僕は博報堂に入社したものの広告なんてどうつくればいいか、わからなくて、大貫はとにかくバカたれなことを言う、という役割に徹していたんです。テーマなんて関係なく、田舎のおばちゃんが裸で大根を持っている絵はどうですか、操上和美さんにタワシを撮影してもらおうとか、脈略もなく好きなことを言っていると、先輩コピーライターが広告という形に定着してくれたんです。

とにかく変なヴィジュアルアイデアを出し続けている感じが、まさに当時の井村くんの役割に近かったかもしれない。井村くんが同じチームにいたときだと、日清食品カップヌードル「hungry?」の企画の頃かな。

井村:あの時は絶滅哺乳類の倒し方を100案考えろと言われて、1案も採用されませんでした。全部大貫さんの案でしたね。

谷山:大貫さんはいつも若い人たちを集めて企画していましたね。

大貫:優秀な人が合理的に企画する打ち合わせよりも、元気のいい若い人がいっぱいいて、しょうもないアイデアをワイワイみんなで作ることが好きだった。独立後、原宿で事務所を開いたのも、チャラチャラした若い人が日常にいる環境がいいと思ったからです。僕らは今の時代の空気やその上澄みを見て、じゃあこう行こうかという仕事をしているわけだから、若い人を打ち合わせに呼ぶのも、原宿にいるのも、そういうことなんです。

井村:大貫さんとの仕事で印象深いのが、ダメ出しが的確だったこと。これはこうなって上手くいかない、こっちは意味は分かるが面白くないとか、1案1案ダメな理由を理詰めで説明される。辛いけれど、そういうダメ出しは他にないので、いい勉強になりました。

大貫:近頃の企画会議はクリエイティブの案をダメ出しすることがないと聞いたけれどほんと?

谷山:基本的に優しいですね。ダメ出しをする人は減っていると思います。

大貫:昔はチームプレイだったし、すべての仕事で勝負をしていました。競合はもちろん、世の中にクリエイティブとして出したときに、絶対に成功するんだ、みんながあっと驚くようなものを作るんだというモチベーションが高かった。でも、今は仕事として合理的に流れているだけだから、そういうパワーがなくなっているんだろうね。

井村:粘らなくなりましたね。ただ大貫さんみたいに、ひと月もふた月も絶滅哺乳類ばかり考えているというのも…。

大貫:あの頃は若かった。でも、僕も大人になってアイデア出しめちゃくちゃ早いですよ。着地させるのには、あいかわらず時間がかかるけどね。それとアイデアといっても、何をアイデアというか、ですよね。マーケティング発想でこうあるべきじゃないかという論理的なゴールのアイデアは見つけたけれど、最終的にどういう表現アイデアでジャンプするかが見えていないときは、もう答えが出るまでやるしかない。論理だけのアイデアじゃ結果が出ないからね。

今の現場は多分そういった仕事の進め方をしていない。マーケティングがアイデアを出して、そのあとクリエイティブがジャンプをしない予定調和の表現で流してしまっているんじゃないか。本来はアイデアを考えるタイミングごとに確実にジャンプしていけば、成功する。そこをみんなで、ふんばって突破するのが、いちばん楽しいのに。

谷山:井村くんはどんなことが印象に残っていますか。

井村:そもそもですが大学4年生の4月、僕は就職活動を始めるにあたり、まずは新聞でも読もうと購読し始めたんです。家に初めて新聞が届いた日に掲載されていたのが、「史上最低の遊園地」。1990年4月1日のことです。当時は博報堂なんて就職先に考えていませんでしたが、それを見てうわーっと思って。その後、入社して配属されたのが、としまえんチームでした。

実は「史上最低の遊園地」を見たとき、簡単に作れそうだなと思ったんです。でも大貫さんの机に行くと、いつも壁一面にラフが貼ってある。あるとき、としまえんの「土曜の夜までお待ちください。」というコピーで夜空のビジュアルが一面にたくさん貼ってあって。僕はそれをぼんやり見ながら、これのどこが違うんですか?と聞いたら、君にはわからないよねーと言われて。この話で何が言いたいのかと言うと、大貫さんは才能があるからアイデアでバン!と決めているのかと思っていたら、こんなに細かく検証をしている。

谷山さんも夜中になってもずっとコピーを書いていて、全然帰りませんでしたよね。学生の時は、コピーなんてすぐに書けて、アイデアなんてぽろっと出るものだと思っていたら、実際はものすごい努力や検証が必要で。それを入社後、お2人の仕事ですぐに見ることができました。それは僕が広告をつくる上での原体験になりましたね。

谷山:TCC賞授賞式で、UHA味覚糖の山田泰正社長が「井村さんはこちらがOK出しているのに、いや違うと言って直してくる」という話をしていましたが、そこは大貫さんの仕事の姿勢を受け継いでいるんですね。

井村:そんなおこがましいものではないのですが、大貫さん、谷山さんの異常な数のラフやコピーを見ていたので、今でも面白いものはすぐにできるわけないと思っているんです。逆にすぐに思いついたものはダメ、大貫さんなら絶対にOKを出さないだろうと。味覚糖さんは大阪の会社で、プレゼンに向かう新幹線で下手に時間があり、不安になるんです。違う案を思いついたりすると、プレゼンの場で、もう1案ありますと出してみたり。

谷山:大貫さんもいろいろと伝説がありますよね?CMのオンエアが始まって、もう終わりそうなのに、まだつくり直しているとか …

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