企業が伝えたい情報を掲載するはずの広告が一見すると真っ白。よく眺めてみると見えてくる「毛」という文字は、脱毛の施術後を表している。
一面「白」が生むインパクト
東京メトロのまど上広告枠に貼り出された真っ白な広告。目を凝らして見てみると、うっすらと「毛」の文字が全面に印刷されている。白地にUV印刷を用いたビジュアルで、角度によって文字が浮かび上がる仕掛けだ。
制作したのはグラフィックを中心に手がけるスパイスグループで、「スパイス」「アドソルト」「セサミ」の3社から若手デザイナー4人がチームを組んで臨んだ。
採用された企画を発案したセサミの吉川千晴さんは、「競合他社の展開ではブランドの世界観を表すようなものも多いですが、今回は『医療脱毛の効果』にフォーカスしたいというお話でしたので、『毛がなくなる』以外の情報をなくそうと思いました。ただ、脱毛の前と後の状態を比較する表現だと広告の枠が2つに割れてしまうので、比較せずに伝える方法を考えていきました。毛がなくなるまでの経過を表すには、そこに"毛があった"という残像を感じてもらえればいいのではと思い、この案に至ったんです」と話す。
社内からのフィードバックで客観性を担保
今回の制作に際しては、参加メンバーがそれぞれアイデアを出して1人1案を完成させる形で取り組み、採用案以外にも3案が提案された。A案を企画したスパイスの山田稔さんは「脱毛の効果を人で表現すると見せ方が似てしまう可能性が高いので、日常的に触れる『毛があるもの』に置き換えました。当たり前に毛があるものをあえてツルツルにすることで、違和感を生む狙いです」と話す。
一方、B案はアドソルトの道廣直子さんが考えたもので、脱毛後の施術箇所に焦点を当てることで注意喚起しつつ、脱毛の自分ゴト化を促すアイデアだ。「被写体の前にルーペなどを設置しワンカットで撮影することで、つるつるの肌を強調する想定でした」。そしてC案は、「女性が大量にムダ毛のついた服を脱ぐ」案で「脱毛と服を脱ぐ行為をかけて、毛がなくなることをユーモラスに表現しました」とスパイスの田中沙苗さんは話す。
提案を受けてライズネットでは、「自社からは出ないアイデア」を基準に案を決定。その後は全員で表現のブラッシュアップを行っていった。「文字が見えるか見えないかギリギリになるよう、突き詰めていきました。UV印刷や白インクの特色印刷で、まど上の光が近く湾曲した環境でどの程度『毛』の文字が見えるのか、文字の大きさや紙の素材を変えながら検証しています」と山田さん。今回の制作進行では、毎回の打ち合わせで企画者以外がフィードバックを行っており、客観性も担保できたという。
吉川さんは「車内広告の特徴として、少なくとも1駅分は見てもらう時間があります。その間に謎解きのように楽しんでもらえると嬉しいです。また、『毛』の文字を見つけることができたスッキリ感をぜひ周りの人とシェアしてもらえればと思います」と語った。
スパイスグループ1984年創立。グラフィックデザインを主軸に、Webデザイン、3DCG、テレビCM、モーションキャプチャの輸入販売までを行う総合広告制作会社。 |
- 企画制作/スパイス+アドソルト+セサミ
- D/田中沙苗、山田稔、道廣直子、吉川千晴
- C/栗田真希(スパイス)