兵庫県知事選「広報」の教訓とは?
PR会社の社長が兵庫県知事選挙の投開票日から3日後に、ネット上に「今回広報全般を任せていただいていた立場として」実際の広報活動を公表した。しかし、公職選挙法が定める選挙運動期間中の業務かボランティアかが不明確な活動内容の記載により、当選した斎藤知事の公職選挙法違反を問う声が広がり、PR会社社長の人物像まで報じられるなどSNSやメディアでの批判が過熱。混乱に発展した。
ウェブリスク24時
ブログや掲示版、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
「不謹慎ネタの投稿」
俳優ロビン・ウィリアムズ氏の死去で、死因が鬱による自殺だという報道が広がる中、大手PR会社エデルマンの米国役員が自社ブログで、メンタルヘルス専門家がアピールする(鬱への理解を促す)チャンスだと投稿、大きな非難を浴びた。
重要な問題にもかかわらず、日ごろ大きなニュースとして注目されることの少ないテーマに取り組む人たちにとって、世の中のスポットライトが当たっている所で情報発信できるというのは、紛れもなく「チャンス」と言っていい。しかし、それはあくまで広報のアドバイスを求めている人に向けた場合に限られる。
今回の騒動は、それをブログというオープンな場に出してしまったことが発端だった。結果として、名優の死という悲しみをこのPR会社は自分たちの新規顧客獲得のビジネスチャンスと見ている、不謹慎だ、と非難された。PR会社のブログであれば、普段は業界関係者か広報に興味のある人が読みに来ることがほとんどだろう。従って、書き手の頭の中にあるのは、基本的にパブリシティの機会を求めている人たちである。
しかしネットはつながっている。ターゲット読者以外も読みに来るのだ。これを忘れてはならない。
時事ネタに絡めて何らかの情報を発信するのは、たくさんの人に見てもらう有効な手段である。ただその場合、意識しなければならないのは、世の中のムードだ。
何がポジティブに、あるいはネガティブに見られているのか。その論調はどう変化するのか。誰がどんな意見を持ち、何に怒っているのか、あるいは悲しんでいるのか。
こうしたムードを考えた上で、細心の注意を払い、複数の目でチェックしたメッセージを発信する必要がある。ムードを無視した情報発信は、今回のようにターゲット読者以外から批判にさらされる可能性が高い。
時事ネタはキーワード検索で多くの人がやってくる。今回の場合で言えば、「ロビン・ウィリアムズ」という人名だ。もしも関連するテーマで情報を発信するならば、固定読者や利用者ではなく、日ごろまったく接点のない、もっと言えば発信者のことを一切知らず、ただそのキーワードに興味のある人に向けた情報を意識しなければならない。
そのキーワードで検索している人は、一体どんな情報を探しているのか。一般に語られているものと反対の意見を探しているのか、自分の中のモヤモヤした気持ちをスッキリさせてくれるものを探しているのか。あるいはよく分からない事情を解説してくれるものを求めているのか。そうした多様な期待を踏まえた上で情報を発信することだ。
マスコミとの決定的な違いは、ネット上の情報は「残る」ということである。その瞬間も、時間が経った後も、情報を探している人に役立つものを発信したいものである。
ビーンスター 代表取締役 鶴野充茂(つるの・みつしげ)国連機関、ソニーなどでPRを経験し独立。日本パブリックリレーションズ協会理事。中小企業から国会まで幅広くPRとソーシャルメディア活用の仕組み作りに取り組む。著書は新刊『なぜ経営者は「嘘つき」と言われてしまうのか? PRのプロが教える社長の伝え方・話し方』(日経BP社)ほか25万部超のベストセラー『頭のいい説明 すぐできるコツ』など多数。公式サイトは http://tsuruno.net。 |