【あらすじ】
トーミョー食品宇都宮工場の製造棟で起きた爆発と火災。従業員2人が負傷し、意識不明のまま搬送された。総務部長の丹後圭司の指示で課長の森川遼はメディア対応に向かう。記者たちから矢継ぎ早に繰り出される質問に、森川はまともに答えることができなかった。中途半端な自分を恥じた森川は、情報収集に動き出す。

自分に今できることは何か
「従業員2名、搬送!至急至急」救急隊員がトランシーバーのマイクに大声で呼びかけている。「意識なし2名。火傷とともに骨折の疑いあり!」
爆発現場の製造A棟では火災も起きていた。負傷したのが最初の爆発だったのか2度目だったのかは定かではないが、従業員に被害者が出たことだけは間違いなかった。「従業員2名負傷、意識なし。これから病院に救急搬送いたします」対策本部にもすぐさま消防隊員から連絡が入る。部屋の空気が重くなる。誰も声を出そうとしなかった。
「負傷した2名は誰か分かるか?」工場長の京極雅也が周囲を見渡して声をあげた。「製造二部課長の福岡真吾とライン主任の喜多啓一です」対策本部に詰めている製造部長がうつろな目で告げる。「家族はいるのか?」「喜多は独身ですが、福岡には奥さんと子供が1人……」京極が顔を天井に向け無言になる。「誰か救急車に同乗できるか?すぐにご家族に連絡して病院へ来ていただくようにしてくれ」「私が行きます」工場長の指示に製造部の若い社員が手をあげる。
「助かってくれ……」誰かがポツリと言う。「きっと助かるさ!」副工場長が語気を強める。「負傷者は他にはいないのか?」「今分かっているのは2人だけです」渋面をした製造部長の言葉に京極が反応する。「まだ増える可能性があるということか?」「出勤していた従業員全員の安否がまだ確認しきれていません。確認できれば分かると思います」「従業員の安否確認が先でしょ!1分でも早く確認して!」京極が声を荒げる。普段は穏やかな工場長として従業員から慕われているが、焦りと不安と恐怖から冷静さを保てない。非常事態しかも初めてのことならなおさらだった。
「メディアがかなり集まってきています。コメントを出したほうがいいでしょう」総務部長の丹後圭司が対策本部内を見回す。「それは本社の仕事だろ」“うちがやることじゃないよ”と言わんばかりの口調で製造部長が声を上げる。「ですが、時間がありません」「こっちでつくれるわけないだろ」丹後に同調する者はいない。「総務部長が言うように時間はない。任せていいか?」工場長の京極が場を鎮める。…