フェンシング男子エペ選手として世界選手権やオリンピックなど、世界を舞台に活躍する見延和靖氏。その一方で、「折れ剣再生プロジェクト」の立ち上げや、JOCのTEAM JAPANシンボルアスリートに選出されるなど、個人として社会貢献活動にも勤しむ。「個」の発信が重視される現代において、見延氏流のコミュニケーション術を聞いた。
太田雄貴氏に刺激を受け 世界に視野を広げて競技に邁進
フェンシング男子エペ日本代表として活躍し、日本フェンシング界を牽引する見延和靖氏。2016年のリオデジャネイロオリンピックでは個人で出場し6位入賞を果たすと、その後の2018-2019シーズンには男子エペ世界ランキング1位となり、日本フェンシング界史上初の年間王者に輝いた。
東京2020オリンピックでは、フェンシング男子エペ団体で日本初の金メダルを獲得するという偉業を成し遂げたことは記憶に新しい。
そんな見延氏がフェンシングを始めたのは高校生になってから。幼い頃からスポーツが好きで、小学校では空手、中学校ではバレーボールと様々な競技に親しんできた。
高校入学を控え、父親からフェンシングを始めてはどうかと助言を受けたという見延氏。その時初めて、父親がフェンシングをやっていた過去を知り驚いたという。地元・福井県にフェンシングの強豪校があったという縁もあり、実際に体験してみると、空手の間合いの取り方がフェンシングにも通じるものを実感。スポーツ推薦での大学進学も視野に入れていたため、将来も見据えてフェンシングの道を歩むことに決めたと話す。
競技を始めた頃はフルーレからスタートし、大学でエペに専念することに。フェンシングには、エペ、フルーレ、サーブルの3種目があり、これらの大きな違いは得点が付く「有効面」、つまり剣先の当たる箇所によって分けられている。エペは当たる箇所がもっとも広く、足裏を含めた全身が得点領域だ。ちなみに見延氏の先輩にあたり、フェンシング界の重鎮でもある太田雄貴氏は、胴体が有効面となるフルーレの選手だった。
フルーレ以外の種目の試合に出ることも度々あったという見延氏は、駆け引きの連続であるフェンシングにおいて、エペは特に、空手で培った相手との距離の取り方が格闘技に近いと魅力を感じたと語る。「全身が得点対象となるエペは、リーチの長さが武器となります。僕は身長が177cmと世界の選手に比べると小柄な方ですが、手が長く、その分リーチ力を活かすことで相手に間合いを混乱させることが強みです」。
現在36歳と、日本選手の中で最年長の見延氏は、ここまで現役を続けるとは思ってもみなかったと話す。「高校3年間で達成感を得られたので、そこで辞めようかとも考えていたんです。そんな時に太田雄貴先輩が2008年の北京オリンピックで銀メダルを獲得したことで、大きな影響を受けました。日本人がメダルを取れるとは・・・