従来は卸売業者や小売店を介して顧客と接点を持っていたメーカーも、顧客と直接つながり、魅力的なブランド体験を提供することが市場で生き残るための重要な鍵となっています。本連載では日本コカ・コーラの公式アプリ「Coke ON(コークオン)」の事例をもとに、顧客とダイレクトにつながる新たなマーケティングの形を考えます。
顧客の魅力的な体験へ還元する そのために有効なデータ利活用
第2回の連載では、「Coke ON」によって得られた価値のひとつとして、「データ活用による顧客理解の深化」を挙げました。そこで今回は、「CokeON」でのデータ活用の考え方について紹介したいと思います。
「Coke ON」では、飲料購買、サイト閲覧、キャンペーン参加などの様々なアプリ利用データ(行動データ)を収集・活用しています。「CokeON」での行動データ活用の目的を端的に表すと「接客の改善」です。お客さまの状況に合わせたコンテンツやサービスを提供することで、アプリを気持ちよく使い続けていただき、結果としてサービスを成長させることを目指しています。データ活用はこれを実現するための手段のひとつです。
自分にとって関心のない情報や、また望んでいないタイミングで届く情報は、「煩わしい広告」だと感じてサービス体験を損ねる一方、ちょうどよいタイミングで届く興味のある情報は「気の利いたサービス」と好意的に感じられます。実際の接客業において、心地よい接客のためには「観察力」「傾聴力」が重要と言われますが、デジタルサービスでも同じです。
現実世界における「観察」「傾聴」にあたるのが行動データの分析です。お客さまの行動からニーズを理解することで、お客さまに合わせた心地よい接客が提供できます。例えば、自分がカフェの店長だとして、新規、常連、久しぶりのお客さまにそれぞれどんなお声掛けをするでしょうか。
お客さまからお預かりするデータは、お客さま本人に対して気の利いたサービスとして還元するためにあり、デジタルサービスでの行動データは、「誰に(WHO)」「何を(WHAT)」「いつ(WHEN)」届けるかの精度を高め、気の利いたサービスを実現する際に有効です[図1]。
Coke ONで得られるデータをどのように活用しているのか?
先述の通り、「Coke ON」では、購買履歴やサイト閲覧などの行動データを元に、個々のお客さまごとのサービス利用状況や飲料の嗜好をデータ化し、お届けする情報をパーソナライズしています。具体的には、新規ユーザーの方に対してはチュートリアルで初回利用をサポートし、炭酸飲料好きの...