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ブランドビジネスのDX

日本企業の課題から考えるブランドビジネスの在り方

奥谷孝司氏(顧客時間)

大量生産・大量消費時代とは異なる企業の社会的姿勢、パーパスを重視するブランド選好の傾向など、大手メーカーにとっては、従来とは異なるマーケティング、ブランドビジネス展開の在り方が求められている昨今。日本の大手メーカーのプロダクトブランドはどのような課題を抱えているのだろうか。国内外の最先端の事例に精通し、さらに実務家としても最前線で活動する奥谷孝司氏に話を聞く。

量の経営だけでは企業が進化できない時代

ナイキやバートンといった企業は世界的に消費者とつながり、支持を得ています。なぜなら彼らは、トラディショナルなマーケティングだけでなく、SNSやアプリを積極的に活用することで、従来の流通チャネルを超え、顧客と直接関係性を構築してきたからです。

このようなお客さまとのデジタルを活用したつながりというKPIを重視することを「質の経営」と呼んでいます。大企業である両社はいち早くこのKPIを経営に取り入れ、従来の「量の経営」(サプライチェーンに商品を供給しながら、トラディショナルなマーケティング戦略を行う)と合わせて、両利きの経営に取り組んでいます。こうした企業というのが、これからのあるべき姿ではないかと考えます。

しかし日本企業の多くは戦後から続く、量の経営からいまだに抜け出せず、チャネルドリブンなモノづくりの仕方と商品供給を変えられていない状況です。

私は著書のなかで「顧客価値の3層構造(Customer Value Pyramid)」という考え方を提示しています。この考えでは、重層化した三角形の頂点から下に向かってつながりの強さを構造化しています。上から順に、「つながっている価値」「体験価値」「機能価値」と呼んでいます。

量の経営では、積み木のように、一番下の「機能価値」から三角形を積み上げていこうとしますが、質の経営では、顧客とのつながりを重視し、上の「つながっている価値」から顧客価値をつくっていきます。いわゆる提供する価値が、モノからコトなのか、コトからモノなのか、ということです。

これはD2Cブランドを例にするとわかりやすいと思います。例えば、スナックミーというD2Cブランドは、お菓子という“モノ”を販売しているのではなく、おやつ体験という“コト”を提供しています。そのコトを提供する手段としてお菓子というモノがあるわけです。つまりおやつ体験を提供するという「つながっている価値」が先にあり、そのあとに、お菓子という機能価値があるのです。

ここが、量の経営の大手メーカーとは大きく違う点です。先にモノをつくると、商品をチャネルに対してどう配荷していくかという考えが先行。メーカー側が勝手に想像したコトを押し付ける状態になりがちです。なぜ、大手メーカーがコトをつくるのが苦手かといえば、顧客と向き合うことが苦手だからです。顧客とエンゲージメントを深めても、チャネルを持てるわけでもないし、売上もあがらないから「つながっても意味がないよね」となってしまう。

加えて、私たちの世代がまさにそうですが、会社が量の経営で動いていると、出世を考える社員たちも、成果を出すためには量の経営を重視せざるを得なくなる。これが今、多くの大手メーカーで起きている状況だと思います。

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