企業よりも先にデジタルシフトをしてしまった生活者に向き合うためには、顧客と向き合い続けてきたマーケティング部門が基点となるDXが必要と言える。特に大切なのがデータ利活用の推進。そう考えるとマーケターはCIOをはじめとする情報システム部門と、より緊密な関係を構築することも必要ではないかという仮説が浮かんでくる。書籍『The Art of Marketing—マーケティングの技法』の著者・音部大輔氏と、CDPを提供するトレジャーデータの堀内健后氏が議論する。
※本記事は、Webメディア『Advertimes.』掲載の対談記事より内容を抜粋しています。
CMOとCIOの間にプロトコルは存在していなかった
音部:これからのマーケティングを考えた際、CMOはテクノロジーの知識を、またCIOはマーケティングの知識を持ち、互いに連携する必要があると思っています。しかし、なかなかその両者は接点がないようです。ここで堀内さんに質問なのですが、そもそもマーケティングにインターネットが関わり始めたのはいつ頃からでしょう。
堀内:仕事でPCやインターネットが本格的に使われるようになったのは2000年くらいから。そう考えると、CIOとCMOが連携できていないという課題は、当たり前のことだと思うんです。CIO的な人が登場して、まだ20年程度。現時点でCIOが50代くらいと考えると、これまでのキャリアの中でマーケティング部門と一緒に仕事をする機会は少なかったはずです。つまり、両者の間にはそもそもプロトコルが存在、もしくは確立していないのではないでしょうか。
音部:「プロトコルがない」とは、非常に的を射た表現ですね。メーカーに所属している場合、新商品開発に際して、マーケターが最初に話すのは製品開発部門。次に売り込みに行くために営業と話をします。その後、商品を滞りなくデリバーするため、工場や物流部門を巻き込んでいきます。これがメーカーにおける実体経済ドリブンのワーキングプロトコルだと思うんです。確かに、ここに情報システム部門って入ってこないですよね。
堀内:2000年代に入ってからはCRM、2010年代くらいからはマーケティング・オートメーションをマーケティング部門が導入するようになりますが、こうしたシステムは「シャドウIT」、つまりはマーケティング部門が情報システムに断りなく、勝手に入れてしまうシステムの筆頭と言われてきました。そこで、この10年くらいで、連携の必要性が高まってきていたわけですが、たった10年で、会社のプロトコルはそう変わらないですよね。
音部:急激な変化の背景にあるのは、スマホの浸透ではないでしょうか。よく「マーケティングのデジタル化」という表現を使いますが、マーケティングが主体となってデジタル化しているわけではなく、企業に先んじて、消費者がデジタル化してしまったから、それに対応してマーケティング活動が変わらなければならなかったのだと思います。スマホが浸透して、常にガジェットを持ち歩けるようになった影響は大きいですよね。
消費者がどこにいるかによってチャネルは変わるはず
堀内:本来はコンシューマー側がどこにいるかによって情報のチャネルは変わると...