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福里真一著『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』刊行記念

人気者ほど最初につまずく?福里真一さん・谷山雅計さんが考える、企画の仕事に向いているタイプとは。

福里真一×谷山雅計

CMプランナー・福里真一さんの著書『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』が刊行になりました。これを記念し特別対談を開催。お相手は刊行から6年経ってもなお、支持され続けるロングセラー本、「発想体質」になるためのトレーニング法を書いた『広告コピーってこう書くんだ!読本』著者の谷山雅計さんです。

互いの著書を手に撮影。
(左)CMプランナー 福里真一氏(『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』著者)
(右)コピーライター 谷山雅計氏(『広告コピーってこう書くんだ!読本』著者)

染みこむように役立つ本

谷山:福里さんの本、面白かったです。僕は「電信柱の陰タイプ」ではなくて、どちらかといえば表に出ていくほうなんだけど、でも自分らしさを信じていないところとか、あくまでモノ(商品)から企画を考えるところとか、共通点が多いと思いました。

福里:僕は谷山さんのように一般化、法則化がうまくできないタイプだと自覚しているので、谷山さんのように役に立つことに、まっすぐ突き進むようなものは書けないですけど、水が染みこむように役に立ってもらえたらいいなとは思って。まあ、役に立たない部分も多いんですが...。

谷山:まず読み物として面白いし、役立つところもたくさんあります。でも読む人が学ぼうとしないと、するっといってしまうとは思いました(笑)。語り方に違いがあるとは思いましたけど、言っていることには強く共感しました。

福里:ありがとうございます。それと、僕の場合には「電信柱の陰タイプ」という視点もあったので、少し自信をなくしている人が、「こんなダメな人間でも企画ができるのか!」と読んでほっとしてくれるようなことも目指してみました。

人気者ほど最初につまづく

谷山:実は学生時代に人気者だった人のほうが、こういう仕事に就いてから悩むことが多いような気がします。昔、僕の下に「大学時代、サークルの中心人物でした!」みたいな奴がついたことがあったんですが、そいつが「学生時代には何を言っても、みんなが笑ってくれたのに、この会社に入ったら、出す案すべてをけちょんけちょんに貶される...」と悩んでいて。その時に話したのが「学生時代はお前自身の“人柄”が皆から愛されていたんだ。でも広告の企画というものは、考えた人間から離れ、企画だけで判断されるものなんだ」ということでした。「電信柱タイプ」はそういうギャップを味わうことがない分、いいのかもしれないですよ。

福里:わかります。少なくとも自分自身よりは、自分が考えた企画が人気者になる可能性の方が高いですからね。

谷山:僕の場合は、「電信柱タイプ」ではなかったかもしれないけれど、でも勉強ができたので、周囲から優等生と思われていたところがありました。「僕の方が面白いことを言える!」と思っているのに、おちゃらけた子の言うギャグのほうが、受けたりするのを歯がゆく思ったり。

福里:不思議なことに、普段面白いことを言う人が、企画するとつまらなかったり、その逆も多いですよね、誰のこととは言いませんが...。自分で自分のことを決めつけないほうがいいですよね。

「最高新人賞」が悪影響

谷山:本の中に電通に入社してからずっとうまくいっていなかったという話が出てきますよね。TCCの最高新人賞をとってからも、まだうまくいっていない感じがしてたって。端から見ていたら華々しい登場感がありましたよ。

福里:それは遠くから見ていたからだと思いますよ。電通社内ではまったく相手にされてませんでしたから。カタログハウス「通販生活」の「もういやだ、こんな生活!」シリーズで、最高新人賞をとったのですが「暗くて、感じの悪い奴だと思っていたら、案の定、暗くて感じの悪いCMをつくったな」という感じの受け止められ方で...。なんというか、みんなの僕に対する印象が確信に変わった、と言いますか。

谷山:世の中でも話題になりましたよね。

福里:でも、この新人賞が悪影響を与えたんです。人のネガの部分を描くCMで評価されたので、「これが僕の性格を活かした作風だ!」と思ってしまって、その後、その作風のCMを企画し続けたんです。しかも、当時の上司から「クライアントとは戦わなければいけない!」みたいなことを言われていたので、その作風のCMを無理やり通そうとして...。ですから、そこからまた3年ぐらいはまったくうまくいきませんでしたね。

谷山:確かに。「通販生活」は今の福里さんのCMと雰囲気が違いますよね。

福里:僕にとっては、まず自分には才能がないと決めたこと、そして佐々木(宏)さんとの出会いが大きかったです。佐々木さんと出会って、ことごとく企画を否定されるという経験をし、でもなんとなく佐々木さんの言っていることもわかるな、と。それを応用して、初めてうまくいったのが「明日があるさ」でした。とにかく、この時はオリエン通りに言われたことを企画しようとしたんです。そのあたりのことも、この本にはくわしく書いてありますので。

変で素直な人が向いている

谷山:僕はいつも「企画に向いているのは、変で素直な人」と言っているんです。「変」というのは、人とは違うことを考えられるということ。「素直」というのは、他の人と同じように感じられるということ。世の中には「普通で素直な人」と「変で頑固な人」が多いのですが、採用するなら変で素直な人が一番。それ以外なら、変で頑固な人を採用して教育するほうがいい、と。あの人は、こう感じる。この人は、こう感じる...。そうやって他人の感じ方を教えて、頑固な人を素直にしていくことはできるんです。

福里:わかります。僕も頑固だったからダメだったんでしょうね。でも、変ではなくて「頑固で普通の人」だったような気も...。

谷山:福里さんの言う普通を僕は「素直」と表現しているのかもしれないです。頑固で自分らしさにこだわりすぎると、すごい資質を持っていても発揮できないまま終わってしまうこともありますよね。

福里:確かに。ピカソですら、あれだけころころ作風を変えてるわけですからね。

谷山:僕は学生時代に川崎徹さんから「自分が知っている自分なんて、自分の中のごく一部。クライアントが求めてくることに対し、どうにか答を見つけようとする中で、自分にも気づかない自分が出てくる」という話を聞いて。川崎さんこそ、自分らしいCMにこだわっている人だと誤解していたので、すごい感銘を受けたんです。福里さんも本の中で同じようなことを書いてましたよね。すごい共感しました。

福里:かつての僕のように、自分らしさとか自分の個性という病にとりつかれている人は多いのではないかと思います。まあ、それでもうまくいく人もいると思うのですが、うまくいかないなら考え方を変えた方がいいですよね。

谷山:個性って出そうとして出るものではなく、結果としてにじみ出てくるもの。改めて広告の企画をする人は特に、自分らしさとか、自分の感性に頑固に固執するのではなく、人と同じように感じることのできる素直さも大切にしてほしいと思いました。

(※本対談のノーカット版が11月上旬より「アドタイ」に掲載となります)

【新刊】 あの、人気連載が書籍になりました!!

『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』
(宣伝会議刊/税込1680円)、11月1日より全国の書店にて販売。

漫画やコメディ風のドラマなどに時々出てくる、電信柱の陰から主人公たちの様子をじっと見ている、あの暗いキャラクター、それが私です。そんなタイプでも企画はできる。いや、そんなタイプだからできる企画がある。そんなことを書いていこうかなとおもいます。(とびらより)

――明日があるさ、フジカラーのお店、宇宙人ジョーンズ、こども店長、エネゴリくん、トヨタReBORN、マルちゃん正麺、...などなどのヒットCMを企画したのは、こんな人間だった!?人気CM プランナー・福里真一氏初の単著。「宣伝会議」本誌の人気連載に、書き下ろし原稿を加えて書籍化!

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