広報担当者にとって日常的に求められる、プレスリリース作成などの文章執筆。しかし伝えたいことが「伝わらない」と苦心した経験がある人も多いだろう。
「伝わらないのは、文章が下手だからではなく『雑』だから。最後まで読んでもらえないことが『伝わらない』につながります」。こう述べるのは、本書の著者であり、国立国語研究所教授の石黒圭氏だ。
そこで本書では、読者への「伝わらない」を解決するための文章作法を解説。4つのテーマ(正確な・分かりやすい・配慮ある・工夫を凝らした)をもとに、「最後まで読んでもらう文章執筆」のためのヒントを示している。
頭の中に良い読み手の育成を
執筆の際に悩みがちなことのひとつが、「正確さ」と「分かりやすさ」の両立だろう。双方とも重要ながら、正確さに重きを置くと文章が長くなり、結果的に分かりにくくなることもある。では、どちらを重視すべきなのか。石黒氏は、「読み手の頭の中を想像して選択することが大切です」と語る。
例えば、正確さを優先したいとき、文が長くなることは必ずしも悪いとは限らない。「先頭から一読して文の内容が予測しやすい」「文全体のバランスが分かりやすい」など、書き方のコツさえつかめば長くても読みやすい文章になるのだ。
「このように『最後まで読んでもらう』ためのコツは沢山あります。それらを踏まえた上で『この場合にはどんな文章がふさわしいのか』を自分で選び取る視点が求められます」(石黒氏)。
ただ、ルールに則った日本語が必ずしも「ていねい」であり、「伝わる」わけではない側面もある。文末の句点(。)を例に挙げると、LINEの場合は使わないことが当たり前になっている人が多い。このため、句点をつけたメッセージを見て「(送り主が)怒っている」と捉える人が一定数いるのだという。
「人間は自分が当たり前だと思う基準を前提に考え、そこから外れたものに別の意図を見出す傾向にあります」と石黒氏。文法的正しさのみを意識するのではなく、状況に合わせて使い分けるのが重要なのだ。
またその理論を応用することで、メッセージ性を高める手法もある。一例として、本書では「助詞の原則」を破る事例を紹介している。動詞「遊ぶ」の場合、助詞は「で」を用いて遊ぶ場所を表すのがルールとなる(「歴史のふるさと、京の都“で”遊ぶ」など)。だがこの助詞をあえて「を」に変えると「歴史のふるさと、京の都“を”遊ぶ」に。ある範囲の中をあちこち移動できるニュアンスが浮かび上がってくる。
変化する「配慮」の形
さらに、「伝える」ためのコツとして「配慮がある文章」も紹介している本書。広報担当者がリリースなどを発信する際にも、あらゆる読み手への「配慮」が欠かせない。炎上しやすい昨今、意図せず書いた表現ひとつで、組織の価値棄損につながる可能性もあるからだ。ただ数か月前には、見逃されていた表現が炎上するなど、炎上のボーダーラインは常に変化している。変化をどのように捉えていけば良いのだろうか。
「我々は日々、数えきれない情報に触れることのできる環境にはありますが、自らに入ってくる情報は意外と偏っているもの。様々な情報に意図的に触れる習慣をつけることで、『この語彙や表現の使用は危険だ』という想像力を養うことが、炎上の回避につながるでしょう」(石黒氏)。