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著者インタビュー

労働安全をベースとした技術活用でウェルビーイングは次なる段階へ

向殿政男氏

実践!ウェルビーイング
世界最強メソッド「ビジョン・ゼロ」

一般社団法人セーフティグローバル推進機構/著
日経BP
304ページ、2750円(税込)

経営課題として注目を集めるウェルビーイング。「働く人がウェルビーイングな状態にあると創造性が3倍、生産性が1.3倍高まり、欠勤率が4割、離職率が6割、そして労働災害が7割減る」という。近年のESGの潮流にも関連することから、国内企業でも「今すぐ実践すべき」と重要視されている。しかし、多くの企業が形式的な施策に留まっているのが現状だ。ウェルビーイングを“幸福の追求”とだけ捉え、「あるべきマインド」をトップダウン型で宣言し、あとは現場任せの状況になっていないか再考したい。

そもそも「仕事にやりがいを持て」と唐突に言われても実現は難しい。本来ウェルビーイングとは、マズローの欲求5段階説のように社員の「安心」「健康」が土台にあり、その上位概念として存在するもの。つまり、新しい概念ではなく、労働安全の延長線上で取り組むべき課題ということだ。本書では、このスタンスをとる国際的な宣言「ビジョン・ゼロ」を軸に、実践的な先進事例を交えて、「どのようにウェルビーイングな企業づくりを実現するか」への道筋を示している。

2022年現在で全世界から約1万1000社の企業が参加する「ビジョン・ゼロ」。それは「人々の安全、健康、ウェルビーイングを第一優先にすることにより、職場におけるあらゆる事故、疾病、災害を防ぐことができる」という哲学に基づく国際的な活動だ。「ウェルビーイングとは、この安全、健康という土台を築いてこそ到達できるゴールであると知ることが大切です」と著者のひとりである向殿氏は強調する。

プロセスと技術が実践の鍵

その上で、社員のウェルビーイングの実現に向けて本書が提唱するプロセスは以下だ。まずはビジョンとなるウェルビーイングを自社の言葉で定義。そして、あるべき姿から逆算してルールや評価基準を策定し、他社事例と比較しながら自社の推進度を理解する。そこから、欠点や長所、社風、文化など既存のリソースを把握し、ビジョンに向けて必要な技術を導入するというもの。

最大のポイントは、幸福論を中心とした心理学の概念や教育・命令などの人間的側面だけに頼らず、“ウェルビーイング・テック”と呼ばれる技術活用を推奨していること。例えば、企業が従業員のウェルビーイングの実現のためにAIやICTを活用しながらその情報を活用・発信できる環境を整えることなどが挙げられる。

双方向のコミュニケーション

広報担当者の役割は、こうしたプラットフォームにより情報を蓄積・可視化することで、双方向のコミュニケーションを設計することだろう。トップダウン型の発信だけでは、社員が自分ごとにできず、真のウェルビーイングにはつながらない。社員の自発性を引き出すためにも、技術活用を前提に加えて、ボトムアップを含めた双方向のコミュニケーションが必要だ。

そこで、本書の先進事例が未来の道標となる。例えば、日揮グローバルは「すべての人が、健康で安心して働き、家族のもとへ無事帰る」を基本理念に“作業員の笑顔が安全文化の指標”と位置づけ、現場の監督者と作業者における双方向のコミュニケーションを多数展開している。作業者の気持ちを動かした結果、働きがいを感じながら、生産性と創造性を発揮するに至った好事例だ。このように、自社の特性に応じた「ウェルビーイングを高めるファクター」を発見して、実践の第一歩を踏み出すことが本質的な「働きがいの実現」へとつながっていく。



向殿政男(むかいどの・まさお)氏
明治大学 名誉教授や鉄道総合技術研究所 会長も兼任。経産省 製品安全部会長なども歴任した。近著は『安全四学―安全・安心・ウェルビーイングな社会の実現に向けて』(共著、日本規格協会)。

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