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広報担当者のための企画書のつくり方入門

小規模な医療機関のためのPR企画書を書きたい!

片岡英彦(東京片岡英彦事務所 代表/企画家・コラムニスト・戦略PR事業)

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない⋯⋯」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

医療機関の広報活動

大規模な医療機関や高度な医療サービスを提供する専門病院は、非営利組織のPR戦略の立案方法を応用できることが多い。一方、地域密着型の小規模な医療機関ではリソースの制限もある。今回は、特に小規模な医療機関を中心にPR企画書の書き方について考えたい。

日本は人口当たりの病床数が世界的にも多いため、自ずと病院間の競争は激しくなる。また多くの医療機関では人手不足に悩まされており、人材確保のためにも、選ばれる病院でなくてはならず、生き残りをかけた広報活動が欠かせない。加えて、多様な分野の事業者が医療業界への参入を試みている。「治療から予防へ」と医療機関にとっての“スタンダード”が変化するに従い、ステークホルダーも変わりつつある。地域の生活者にとって必要な医療情報をどう発信していくべきなのか。

視点1
患者(顧客)との接点づくり

医療機関を選ぶ上で重要なクチコミ

企画書を作成する際には「患者の視点で考える」という基本からスタートしたい。一般的に患者(潜在的な患者を含む)が医療機関を選ぶ際に最も気になるのは、その医療機関が提供する医療技術やサービスの質だ。過去に大きな医療ミスなどが起こった病院は避けたいと思うのは当たり前の心理だ。サービスの質に疑念を抱かれてしまうようならば、選択肢からは外れてしまう。

一方、具体的な治療方法や医薬品に関連する医療情報に関しては、医療機関と患者との間には大きなギャップが存在する。検討中の医療機関ではどういった医療技術・サービスを提供し、どのような治療を行っているのか。その処置が本当に適切なのか。こうした判断を患者が自ら適切に行うことは非常に難しい。このため多くの生活者は、医療機関を選ぶ上で、ネット上のクチコミや比較サイトの投稿コメントなどに頼っているのが現状だ。

医療機関における広報活動の目的

医療機関による広報活動では、①まず患者(顧客)から「良いイメージ」を持ってもらうことが重要だ。このために②日頃から顧客との間に「接点」(良好な関係性)を持っていることが欠かせない。だが、この関係性は一朝一夕に築き上げることはできない。③徐々に顧客との信頼関係を高めること。これが広報活動の最初の目的となる。

さらに、④地域の生活者が利用するコミュニケーションサービス(ツール)上で評判や情報が自動的に拡散していくこと。⑤その結果、地域の方々の間に医療や健康に関する情報が行き渡り、医療機関としての信頼を獲得すること。この「仕組み」の完成が広報活動の最終ゴールとなる。

図1 医療機関の広報活動で目指すもの

①顧客が良いイメージを持っている

②顧客との間の日常的な「接点づくり」が行われている

③顧客との信頼関係が高まっている

④コミュニケーションサービス(ツール)を通して広く伝わっている

⑤医療情報、健康情報が広がることで医療機関としての信頼を得られている

ここがPoint!

基本的な考え方

●医療事故・医療過誤など、事実関係にかかわらずマイナス要素のイメージが定着している機関の場合は、まずは患者視点に立った改善策の発表、体制の見直しを行う。ポイントは①誰にとっても分かりやすい表現、②事実を包み隠さずに情報開示、③患者視点での真摯な態度。

●地域に密着した小規模な医療機関、クリニックなどが顧客との接点づくりを行う場合、地域の催事・イベントの協賛活動を行うケースも多い。他にも地域住民が参加する健康増進、ストレス予防の講習プログラムを医師や看護師が主催するなど、ライフワークとしてできることを、継続して行うことが重要となる。

●大規模な地域を代表する医療機関、公的役割の強い専門医療機関などは、地域に密着した医師らによる活動のみでは接点の広がりにも限界がある。規模の大きなシンポジウムなどに所属する医師が登壇する機会を検討する他、マスメディアへの出演、パブリシティ活動、ペイドメディア・オウンドメディアの活動など、法律や予算上の様々な制約の中で効果的なコミュニケーション戦略を立案していく。マーケティングやPRの専門性の高い職員の採用も検討したい。

視点2
具体的に何から行えばいいか?

制約の中でも独自のウリを明確に

広報戦略を立てる上では、誰からも分かりやすい魅力「Flagship(フラッグシップ)」は何か、具現化された独自の「ウリ」は何かを明確にすることから始めることを勧めている。

もっとも「ウリ」とはいっても一般企業とは異なり、医療機関の広報戦略においては医療法による広告規制について慎重にならなくてはならない。特に「患者の受診等を誘引する意図(誘引性)」のある表現は医療広告に該当する要件のひとつ。表現可能な事項が定められているので注意したい。ここで言う「ウリ」とは、図2の①~③を満たした上での医療機関の「個性(魅力)」のことだと考えてもらうと分かりやすい。

図2 医療法に基づき表現が可能な条件

①客観的な評価と事後検証が可能である

②適切な医療機関の選択が阻害されない

③患者の治療選択等に有益な情報である

図3 医療機関の「ウリ(個性)」の表現事例

治療方針について

●治療の際には可能な限り歯を削らない治療を目指しています。

●手術以外に薬物療法もありメリットデメリットを十分説明した上で患者との話し合いと合意の上で治療方針を決定しています。

医療の提供の結果

●医療機関で行われた手術の件数(係る期間を併記)

●平均的な入院日数(同)

●平均的な外来患者数、入院患者数(同)

●平均病床利用率(同)

●セカンドオピニオンの実績

●患者満足度調査を実施していることおよび結果を提供していること

●健康診査、保健指導又は健康相談の実施について

事実とは異なるような「虚偽」の表現を行うことは禁止されている。このため「絶対」「100%」というような「言い切り」の形での表現を使ってはならない。手術や治療において「絶対に治る」「100%安全」などはあり得ないため、こうした表現を用いることは「虚偽」の表現にあたることになる。

また写真を使用する場合にも注意が必要だ。施設の外観など医療活動と関係ない写真であれば問題ないが、例えば治療前、治療後など分かりやすく患部などを対比させ、視覚的に分かりやすく伝えようとする際にはイメージだけではなく、詳細について触れることが必須となる。具体的には、治療にかかる費用、リスク、副作用他、治療内容について十分な説明を加え誤認を防ぐための配慮が必要となる。

そして「最高」「ナンバー1」などの表記については医療機関に限らず使用しないようにしたい。特に特定の医療機関と比較した上で、他の医療機関よりも優越しているかのような表記は禁止されている。

ここがPoint!

医療機関の広告規制について

●医療法における、広告規制の対象範囲として①患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)と②医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称が特定可能であること(特定性)と示されている。

広告に該当する媒体の具体例として、チラシ、パンフレットその他これらに類似するもの(ダイレクトメール、ファクシミリ等)やポスター、看板、ネオンサインなども含まれる他、新聞、雑誌その他の出版物、放送、Eメール、インターネット上の広告、不特定多数の者への説明会、医療相談会など、一般には「広告」ではなく「広報」と呼ばれることが多い表現物も含まれているので注意したい。

●「事実」または「客観的情報」として定められた事項を除き、医療機関による「広告」は原則禁止されている。一方、平成19年4月1日施行の改正医療法により広告可能な内容は一部拡大された。禁止されている表現や広告可能事項の限定解除が認められる要件などについては厚生労働省の最新のガイドラインとQ&Aなどを確認してほしい。

https://
www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokokukisei/
index.html

視点3
有効なコミュニケーション

医療機関で活用したい「攻め」と「待ち」の手法

地方のクリニックなど小規模な医療機関でよく使われている「コミュニケーション」のためのツールとして、地域密着型の媒体が挙げられる。

ここでは一般的な「広告」と「PR」との垣根を越えて考えるとするならば、具体的には、交通広告(駅の看板、駅構内のポスターなど)、電柱広告、屋外看板などだ。こうした媒体を活用したコミュニケーションは、医療機関名、所在地、診療時間、診療科目などの情報の告知には非常に適している。また「親しみやすさ」「信頼感」などのイメージをクリエイティブの力で表現することもできる。しかし、媒体特性やスペースの都合により基本的には「待ち」のコミュニケーション姿勢となる。

地域密着の医療機関にとって、その地域内での信頼獲得は必須だ。このため「攻め」の広報姿勢でさらに積極的に臨みたい。

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