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実践!危機管理広報 リリース・社内フォローほか編

不祥事発覚、「従業員へのフォロー」は、どうすべきか

山口明雄(アクセスイースト 代表取締役)

不祥事対応での広報は、メディアへの対応ばかりに気を取られがちだが、従業員への説明や方針の提示が置き去りになっていないだろうか。危機発生時にどう社内コミュニケーションすべきか。広報としてトップに進言すべきこととは。

不祥事発覚時の組織内へのフォローは、メディア対応と同じくらい大切です。フォローの仕方がまずいと、内部告発が報道されたりして、不祥事報道が爆発的に拡大し、数カ月間も報道が続いたりします(図1)。日大アメフット事件(選手が会見後に大学が正式会見)や吉本興業の闇営業問題(相次ぐ所属タレントの不祥事発覚、タレントも独自で会見)はその典型です。

図1 従業員のフォロー不足は不祥事を拡大しかねない

出所/筆者作成

フォローが必要なのは、会社の社員、アルバイト、所属タレント、大学の学生らが、不祥事の当事者となるケースだけではありません。組織風土やコンプライアンスが問われる不祥事の場合も同じです。大多数の社員は、問題は経営者にあり、自分たちは蚊帳の外にいると考えますが、不祥事報道に伴う世間や取引先の偏見、バッシングなどによって肩身の狭い思いをするのは経営者だけではありません。すべての社員とその家族です。

社内へのフォローを考えるとき、不祥事が主として企業の問題なのか、従業員が当事者の一部とされているのかによって、フォローの仕方はある程度変わると思います。ただし、大事なポイントは変わりません。どんな不祥事報道にも共通する最善の対応策は「素早い対応」です。

不祥事発覚直後に、できれば数時間のうちに、不祥事報道に対する立ち位置を経営トップが記者会見を通して明解に発表することです。報道が事実なら、過ちを認めて謝罪する。報道内容が事実と異なる場合は、その点を明確に説明します。不祥事の内容次第で、ニュースリリース、またはホームページでの発表の方が良い場合もあります(通常、危機の社会的影響が比較的軽度で今後発展する可能性がないと判断される場合。会見を開くかの対応を決めるのは、会社の危機対応組織)。

そしてメディアに対する発表は、直ちに社員にも、直接伝えることです。社員のフォローも、メディア対応と同等に考えることが大切です。不祥事対応の現場に立ち入ると、広報がやっていることはメディア対応だけで、社員へのコミュニケーションは置き去りのケースが多いのです。「手が回らない」という言い訳ならまだしも、「社員への緊急連絡の方法がないので後回しになっている」という企業も少なくありません。

広報からの緊急連絡、訓練を

社内広報は印刷物で行っているという企業はいまでも意外と多くあります。次に多いのはイントラネットですが、この場合、社員が自らイントラネットにアクセスしない限り情報を得ることはできません。社員へのメールの一斉送信はもっとも効果的に思えますが、送られるのが社員のメールアドレスで、社外で見られない場合は緊急時に必ずしも役に立たないのです。

コロナ下の在宅勤務でリモート連絡がしやすくなったかもしれません。しかし、広報担当者から社員全員に緊急連絡するシステムは、別途構築する必要があると思います。

最近は、多くの企業が安否確認システムを導入しています。このシステムは広報の緊急連絡のシステムとしても活用できるので、私は推薦しています。

企業を取り巻く危機は、不祥事だけではありません。災害時の従業員に対する正しい指示も企業の責任です。ただちに従業員全員に直接指示や情報を送ることだけではなく、安否の確認まで企業に求められています。

広報は、日頃から重要事項の社内連絡ツールとしていま使える方法で、緊急連絡の訓練をしておきましょう。会社の規模やメールの使い方などは各社で異なるので、実際にやってみなければ、効果の程度はわかりません。従来型の部門長から社員へというような緊急連絡網は、小規模な会社では有効かもしれません。設備があれば社内放送なども使えます。

トップの決意を直接伝える

緊急連絡で社員に伝えるべきことは、メディアへの発表や、その中に含まれる再発防止策だけでは不足です。トップの決意の表明が必要です。

例えば、「事実関係を徹底的に解明し、原因をとことん究明し、二度とこのような不祥事を起こさず、誰からも尊敬される会社に変貌させるために私は全力を尽くす。そのことを社員・従業員の皆さまに約束する」などです。

トップは委縮してはいけません。危機の時だからこそ、会社の将来像を真剣に聞いてもらえます。

不祥事の概要を簡単に説明することも大切です。また、「報道などに振り回されることなく、平常どおり業務にあたってほしい」「メディアや取引先から質問を受けた場合は即答せずに、上司、あるいは広報に相談してから回答してほしい」と求めることも必要でしょう。

リモートワーク時代には、ビデオによるフォローが有効です。最後まで見てもらうために、時間としては10分以下、できれぱ5分以内に収めます。その代わり、不祥事対応の進展に応じて、その都度配信すると効果が格段に高まります。広報としてトップにメッセージの収録を進言しましょう。

取引先から質問されたら

メディアや取引先対応については、質問を受けたからと言って、一般社員が対応するべきでないとの考えは普通です。とはいえ、テレビの待ち伏せ取材に対して「知らん振りをして」通り過ぎる姿が放送されたり、取引先に対して「すみません、その件は、私はお話しできないんです」だけの回答では、さらなるイメージダウンになりかねません。日頃の営業努力も水の泡です。

社員がメディアや取引先から受けた質問に対して、「ここまでは答えて良い」、しかし、それ以上は、「いまお答えできないが、後ほど上司または広報の担当者から必ず回答を差し上げます」、と対応するよう、すすめるやり方もあると思います(やり方を決めるのは会社の危機対応組織であり、広報ではありません)。

社員の対応を許可するときに活用できるのが「ホールディング・コメント」です。本来は広報が、事故発生や不祥事発覚時、メディア対応の準備ができる前に受けた質問に対して「ホールド」、すなわち「待ってください」とお願いするために使う文言です。危機対応の責任者や緊急対策委員会などの承認を得て使用します。

ホールディング・コメントの活用

ホールディング・コメントの内容は、①現時点での会社の認識、すなわち、メディアにいま話して良いこと②メディアの質問には答えず、記録する③メディアとの間で時間を決めて回答を約束する、の3点です(図2)。

本日、午前8時10分ごろ、東京都港区南青山三丁目付近で発生した〇〇株式会社の商品配送車が関係した事故については...

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