どんな企業にもリスクは潜んでいる。SNSでの失言、データの紛失、飲酒運転で逮捕など。業務内・外を問わず起きる社員の不祥事に、広報として、どこまで対応すべきなのか。実例をもとに傾向と対策を見ていく。
業務時間内の不祥事であれば会社が対応し、業務時間外の場合は積極的には対応しない、というのが教科書的な大原則ですが、コロナ禍で在宅勤務が定着するにつれ、業務「内/外」の境界線は不鮮明になってきました。また、個人のSNS発信に加え、オウンドメディアなど企業発の情報発信も活発化し、「個人/組織人」の境目がぼやけるなか、個人の失言の後始末をも企業が取らされるような場面が増えています。
社員不祥事の広報対応はどうあるべきか。本稿では実例を題材に、その傾向と対策を見ていくことにしましょう。
社員の不祥事は、大別すると、逮捕など刑事事件化したもの(するもの)と、事件化こそしないが、多くの人に迷惑や心配をかけ、社会から批判されたもの、の2種類に分かれます。
前者は、横領、機密情報の漏洩、循環取引など「業務に関わるもの」もあれば、飲酒による交通事故、ひき逃げ、痴漢、児童買春、窃盗、薬物の所持・使用など、必ずしも「業務に関係しないもの」も含まれます。
一方、後者には個人情報流出、失言、悪ふざけ、などが該当します(図)。
「社員逮捕」で驚かないために
企業の広報担当者としてもっとも驚くのが、社員逮捕を知らされた時でしょう。社員逮捕を企業が知るルートは大きく3つあります。1つ目は、社員本人や家族から連絡が入って知る場合。2つ目は、警察から問い合わせ(逮捕された社員の在籍確認)が入ったり、報道機関から取材が入って知る場合。3つ目は、報道を見て知る場合です。3つ目は最悪ですが、第一、第二の場合もほとんど時間的な余裕はないまま、広報対応の方針を決めねばなりません。
その際、まず考慮すべきは、①業務内か、業務外か、②警察は会社名を公表するのか──の2点です。
いきなり社員逮捕を知らされる場合は、業務外の案件がほとんどだと思われますが、業務外と判断した場合の広報対応の基本は、問い合わせのあった報道機関への個別対応です。
その際、②の警察が事故・事件を報道機関に公表するか否か、公表する際、被疑者の属性として勤務先の会社名まで公表するのか、は広報として押さえるべき情報です。企業名まで公表するとなれば多くのメディアからの問い合わせは必至です。その場合、個別対応は非効率なので、リリース文を用意する必要性が高まります。これらの点は所轄警察署の判断次第ですので、警察に直接問い合わせるのがいいでしょう。
損害はステークホルダーに説明
「業務内」の不祥事は、社内で発覚する可能性が高く、その場合、判断の起点は、まず①個人の犯行なのか、組織的なのか。個人の犯行だった場合、次いで②被害者はだれか、被害者に弁済可能なのか否か、がポイントになります(組織的な犯行の場合、企業不祥事ですので横に置きます)。
会社が多額の被害を被る場合、株主やその他ステークホルダーへの説明は不可欠です。被害者が特定され、被害額が、不正をはたらいた社員が弁済できる程度の少額であれば、この社員を懲戒解雇し、会社として刑事事件化しない、したがって公表もしない、という選択もあり得ます。ただ、その場合、内部告発のリスクは抱え続けることになります(➡CASEⒶ・Ⓑ)。
CASEⒶ
窃盗未遂で逮捕
警備会社ALSOK東京の警備員が、2020年7月下旬、警備を担当する千代田区内のビル内の弁護士事務所にマスターキーで侵入し、金品を盗もうとしたとして、窃盗未遂容疑などで8月21日(金)に逮捕されました。警察は報道機関に逮捕事実を発表しなかった模様で、週明け8月24日(月)夜、ある民放ニュース番組のみが「独自」ネタとして報道しました。翌25日(火)朝、NHKや新聞朝刊が追いかけて報じるなか、同社は同日、「弊社社員の逮捕について(お詫び)」とのリリースをホームページにアップしました。
対応
報道が増え、リリースでお詫び
同社は当初、警察が公表しないと判断し、問い合わせのあった報道機関に個々に広報対応したものと見られます。しかし、報道が増えるにつれ、「お詫び」のリリースを公表しました。社員が警備を担当するビルの一室にマスターキーで侵入したのですから、明らかに「業務内」の案件です。したがって逮捕時点で、本人が容疑を認めていることを確認し次第、自らリリースしたほうが誠意ある対応だったといえるでしょう。
CASEⒷ
詐欺が内部調査で発覚
第一生命保険で2020年6月、顧客からの問い合わせによって、同社の山口県を拠点に勤務する女性社員(営業職員)が顧客に架空の金融取引を持ちかけ、顧客の金銭を詐取していたことが発覚。社内調査の結果、この社員は少なくとも21人の顧客から計約19億円を詐取していることが判明しました...