
人間心理を徹底的に考え抜いた 「強い会社」に変わる仕組み
松岡保昌/著
日本実業出版社
368ページ、1700+税
今、新型コロナウイルスの対応により各業界で、企業の本当の「強さ」が試されている。本書の著者である松岡保昌氏は「『強い会社』とは世の中の動きを敏感に察知し変化、対応し続けることができる会社」と話す。
重要となるのが社員の力だ。「組織改革を推し進めるのは社員。社員が心から会社の理念に共感し、会社もその人のスキルを必要としている。社員と会社が相思相愛な関係であることが、強い会社をつくる上で欠かせません」。
他社の真似では改革は難しい
松岡氏はリクルート、ファーストリテイリング、ソフトバンクで組織改革に関わってきた。ファーストリテイリングでは人事・広報・宣伝の枠を超えて「ユニクロ」をブランドとして確立させ、社の急成長を推し進めた。
その経験から、組織改革のポイントとして❶企業理念 ❷コア・コンピタンス(自社ならではの強み) ❸仕組み・制度・施策の重要性を挙げる。「理念を明文化している会社は多くありますが、戦略的な社内制度の立案まで実行できている会社は少ない。自社の強みを社内外で共有し、社内の制度や施策ごと変えていく。この繰り返しが、組織改革の成功につながります」。
本書では著者考案の、強い会社に変わるための「思考フレーム」も収録。ファーストリテイリングで実際に用いた事例も盛り込んでいるが、他社を真似するだけでは不十分だと指摘する。「自社の理念や強みに紐づいていなければ、その施策は逆効果になる可能性が高い。会社としてふさわしい改革のあり方とは何かを判断できるよう、フレームを利用していただければ」。
「視座」と「視野」を共有しよう
著者は企業で広報業務にも関わってきた経験から、社内外のコミュニケーションにおいて「視座」と「視野」の共有が重要だと考える。「視座」は役職や立場ごとの理解の差、「視野」は情報の捉え方や理解度の差のことだ。
「広報はトップの考えを消費者やメディア、社内に伝える仕事。でもトップの思考の背景まで理解してもらえないケースは往々にしてあります。そんなとき、『視座』と『視野』を共有することが重要。トップ自身と対話し、今の考えや意図、指示に至った経緯を説明してもらうように促します。思考過程を共有することで、ズレのないコミュニケーションが可能になります」。
メディアとのコミュニケーションでも同様だ。「記者の『視野』がどこまで自社を捉えているかを察知しなければなりません。それによって伝える情報は異なりますし、相手の『視座』に立ったときにこの伝え方がベストかどうかを考える必要があります」。
松岡氏が広報を担当していた当時はリリースや参考資料を準備することはもちろん、記者の理解度によって「会社の事業の部分から補足した方がいいか」「この場で補足するよりもメールで参考資料として渡した方がいいか」と配慮するなど、戦略的にコミュニケーションを考えていたという。
コミュニケーションひとつで企業の印象が変化し、報道の論調や記事のトーンを左右することもある。それこそが広報の仕事の難しさであり、面白さでもある。「記者のプライドやメディアの立ち位置などを踏まえた上で、嫌味なく、相手の理解を促せるか。広報の腕の見せどころだと思います」。

松岡保昌(まつおか・やすまさ)氏
1986年リクルート入社。『就職ジャーナル』『works』の編集や組織人事コンサルタントとして活躍。2000年にはファーストリテイリングに移り、執行役員人事総務部長、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長を歴任。2004年からソフトバンクでブランド戦略室長。福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役として球団の立ち上げも行う。2014年に独立し、モチベーションジャパンを設立。