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危機管理広報2020

リクナビ騒動以後の未来地図 「人手不足倒産」時代の採用広報

石渡嶺司(大学ジャーナリスト)

リクルートキャリアが「内定辞退予測」のデータを企業に販売していた問題は個人情報の扱い方はもちろん、人材採用のあり方にも課題を突きつけている。企業の人事部、大学、学生の視点を交え、専門家が未来の採用広報の行方を占う。

問題の経緯

2019年8月26日

リクルートキャリア本社(東京・千代田)。

リクルートキャリアが「リクナビ」に登録している学生の行動履歴などから、内定辞退率を予測できるデータを38社へ販売していた件で8月26日、小林大三社長と執行役員の浅野和之氏が記者会見を開いた。同日には、個人情報保護法に抵触するとして政府の個人情報保護委員会から指導を受けた。

リクルートという企業を無理に定義するとしたら「情熱と驕りの間で揺れ動く企業」ではないだろうか。1960年に東京大学新聞の広告代理店として創業。その後、採用広報をリードし、就職情報サイト(リクナビ)、適性検査(現・SPI3)を開発。それ以外にも転職、アルバイト、結婚、旅行などの各種サイトでもトップブランドとして高い知名度を誇る。各分野でいかに開発し発展させてきたか、その功績は誰もが認めるところであろう。

「どうせ他社もやっている」

一方、何かと不祥事がクローズアップされやすい企業でもある。その最たるものが1988年のリクルート事件であろう。それ以外にも小規模な事件や騒動が何かと注目される。その根底にあるのは「我々が色々とリードしているのだから」という驕りではないだろうか。

企業が実績をあげていくのは素晴らしいことだが、その功績を誇りすぎると驕りにも転じる。そのリクルートの驕りが2019年7月、内定辞退率販売騒動を起こしてしまった。内定辞退率とは、「リクナビDMPフォロー」というサービスから生み出されたものだった。

就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアがリクナビに登録している学生の閲覧・行動履歴と前年度学生の行動履歴などの解析データを合わせ、そこから選考参加企業の内定辞退率を算出。そのスコアはリクルートキャリアがリクナビに採用広告を出稿している企業に販売していた。

この内定辞退率スコアの売買は個人情報保護法に抵触しており、その疑いから7月9日には個人情報保護委員会からのヒアリングを受けている。それが8月1日に主要紙で報道され、一気に社会問題と化した。

この内定辞退率販売の騒動について、当初、リクルートキャリアは甘く見ていた、と言わざるを得ない。実際に8月1日付のプレスリリースを見ると、以下のように弁明していた。

    「企業は適切なフォローを行うことができ、学生にとっては、企業とのコミュニケーションを取る機会を増やすことができます」

    「学生の応募意思を尊重し、合否の判定には当該データを活用しないことを企業に参画同意書として確約いただいています」

内定辞退率販売のサービスについては廃止ではなく、一時休止とした。それは、「学生の個人情報がどのように企業に提供されていくのか、よりわかりやすい表現や説明方法を検討し終えるまで」という理由による。

このプレスリリースや対応から、リクルートキャリアの驕りを感じた大学教職員や採用担当者は多くいた。実はリクナビのライバルであるマイナビを含め、他社もこの内定辞退率予測のサービスを販売していた。「どうせ他社もやっている」とリクルートキャリアは驕り、甘く見たのではないだろうか。

「学生のため」と言いつつ、塩対応

ただし、同業他社の内定辞退率予測は個人情報には紐づけられていない。例えば、マイナビだと、前年度のエントリーシートを集計したうえで、内定辞退率予測を算出していた。この情報を進行中の採用でどう活かすかは企業次第である。

しかし、リクルートキャリアの内定辞退率予測はリクナビに登録し、選考参加中の企業について算出している。つまり、個人情報保護法に抵触している。個人情報保護法だけではない。

就職情報会社は職業安定法にビジネスが規定されている。求職者(新卒採用だと学生)の個人情報は企業に提供してはならない、とあり、実際に8月2日には厚生労働省の東京労働局が調査を開始。9月6日には職業安定法違反として認定され、指導を行っている。リクルートキャリアは、それより前、8月26日には個人情報保護委員会から指導・勧告を受けた …

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