組織風土やコーポレートガバナンスの問題を多数投げかけた、日産自動車の問題。ゴーン氏の逮捕から1年、9月には西川廣人前社長の報酬不正まで明らかになった。長年、日産を取材してきたジャーナリストは一連の騒動をどう見るのか。
問題の経緯
2018年11月19日

日産自動車のグローバル本社(横浜市)。
11月19日、日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が役員報酬を約50億円分過少記載していたとして、有価証券報告書虚偽記載罪(金融商品取引法違反)で逮捕された(12月10日に同罪で起訴)。同社の西川廣人社長は同日午後10時からグローバル本社で会見を開き、約2時間にわたり記者らの質問に答えた。
日産自動車では12月1日付で内田誠専務が社長兼CEOに昇格し、新体制が発足した。西川廣人前社長が9月16日付で辞任以来、暫定トップ体制が続いていたが、当初予定より1カ月前倒しで新体制に移行したのは、人心を一新して業績低迷からの打開を図るためだ。
この1年間の日産の置かれた状況を振り返ると、2018年11月にカルロス・ゴーン前会長が東京地検特捜部に逮捕されて以来、目まぐるしい動きだった。提携先で筆頭株主でもある仏ルノーとの関係がこじれたり、ゴーン氏に取って代わった西川氏も社内規定に反した手続きによって「不正報酬」を得ていたことで引責辞任に追い込まれたりと、企業イメージを地に堕とすような事案が続いた。
取材してきた筆者も、「組織風土」や「リスク管理」、「企業統治(コーポレートガバナンス)」について深く考えさせられた。
用意周到だった単独緊急会見
まず、衝撃のゴーン氏逮捕は、2018年11月19日の夕方だった。これを受けて日産は同日午後10時ごろ、横浜市内の本社で西川社長が緊急記者会見を行った。通常、大企業のトップが逮捕された直後は、「真摯に受け止め、捜査に全面的に協力します」といったようなお決まりのコメント程度しか出ず、会見をしたとしても弁護士や広報担当役員らが同席するケースが多いが、異例だったのは、西川氏が単独で会見に臨み、かつ内容も踏み込んでいたことだ。
それには大きく3つの理由があると筆者は思う。まず一つ目は、内部通報を受けた社内調査によって会社側が不正の内容を事前にかつ詳細に把握していたので、自信を持って開示できたからであろう。ニュースリリースには、「(ゴーン氏と一緒に逮捕された代表取締役の)グレッグ・ケリー氏が不正に深く関与した」とか、「検察に情報提供した」などと断定的に書かれていた。
二つ目は、ゴーン氏の不正を社会にアピールして世論を味方につけたかったのではないか。三つ目は、西川氏は平素からメディアトレーニングを嫌う傾向にあり、「広報は自分がやれる」との思い込みが強いトップだったので、すべて自分が仕切ろうと考えたからだ。
西川氏の取った行動は、危機管理の立場からすれば賛否両論があるだろう。ただし、会見で西川氏が「重大な不正行為」と繰り返し発言し、逮捕されたばかりなのに、かなり踏み込んで説明していたことから、用意周到に準備された逮捕劇だということはすぐに分かった。過去の取材も踏まえ、筆者はある種の「クーデター」だと直感した。
ただし結果論から言うと、あの局面でトップがメディアに出てきてあまりしゃべるべきではなかった。後に西川氏も「報酬不正」で引責辞任に追い込まれるわけだが、「クーデター」を起こした張本人も不正に手を染めていたということでイメージがさらに悪化したからだ。
「企業統治不全」に至るまで
「クーデター」だと直感したことを説明するために、事件からさかのぼって日産の歴史を説明しよう。
経営危機に陥った日産は1999年、仏ルノーから36.8%の出資を受け入れたことで経営破綻を免れた。ゴーン氏が指揮した「日産リバイバルプラン」などのリストラを実行して経営再建を果たした。両社の提携は業界では珍しく20年以上も関係が続いている。
ところが、その提携に転機が訪れたのが2015年だ。ルノーの筆頭株主である仏政府が2年以上保有する株主の議決権を2倍にする「フロランジュ法」を適用し、ルノーへの経営の関与を高めた。仏政府がルノーへの関与を高めれば、間接的に自社にも影響が及ぶと日産は判断。仏政府への対抗策を講じたそのひとつが、ルノーと日産の提携契約の見直しだった …