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危機管理広報2020

吉本興業の失敗が知らしめた 広報の「初期対応」の重要性

影山貴彦(同志社女子大学 学芸学部メディア創造学科 教授)

不祥事に際し所属タレントが組織に先んじて単独で記者会見を開くなど、吉本興業の「闇営業」問題の広報は初期対応に批判が多く寄せられる結果となった。毎日放送出身で、多くの媒体で本件のコメントをしてきた筆者が問題点を解説する。

問題の経緯

2019年7月20日

吉本興業の東京本部(新宿区)。

入江慎也(カラテカ)が宮迫博之(雨上がり決死隊)ら吉本興業の芸人を、事務所を通さずに特殊詐欺グループの忘年会に参加させた「闇営業問題」。6月7日発売の写真週刊誌がスクープした。7月20日には宮迫と田村亮(ロンドンブーツ1号2号)が記者会見を開き、事務所から会見の開催許可が下りなかったことなどを明かしたため、吉本興業の企業姿勢が問われることとなった。

吉本興業所属のタレントを中心としたお笑い芸人たちによる、いわゆる「闇営業問題」が初めて報じられたのは、2019年6月7日発売の『FRIDAY』(講談社)においてだった。

2014年の年末、振り込め詐欺グループの忘年会において、カラテカの入江慎也は、当時所属していた事務所である吉本興業に対し、事前に何の報告することもなく仕事をする、いわゆる「直営業」を行った。その際に声をかけ参加していたのが、同事務所所属の雨上がり決死隊の宮迫博之、ロンドンブーツ1号2号の田村亮ら11人だった。また加えて、ワタナベエンターテインメント(以下、ナベプロ)所属のザブングル(松尾陽介・加藤歩)も参加していたことが後に明らかになった。

ちなみに、所属事務所を通さずに行う仕事をすべて「闇営業」と捉える傾向が相変わらず目立つが、仕事の対象が反社会的勢力などに該当する場合に、その呼称を使うのがより適当であろう。カラテカの入江が仲間の芸人たちに仲介した「直営業」は、依頼された組織が振り込め詐欺グループであったことから「闇営業」にあたる。「直営業」の中の一部が「闇営業」と考えるのが、本来の正しい言葉の解釈だ。

謹慎処分発表で過熱報道へ

さて、FRIDAYの発売に先立つ6月4日に、カラテカの入江は吉本興業から契約解除の処分を受けた一方で、他の吉本興業所属の芸人たちは当初「厳重注意」という処分に留まっていた。宮迫らも、「金銭は受け取っていない」と事務所からの聞き取り調査に対し語っていたが、後にギャラの差はあるものの、参加した芸人たちが全員金銭を受け取っていたことが明らかとなり、6月24日に所属芸人11人の「謹慎処分」を発表した。

また、ザブングルの所属事務所であるナベプロは、メンバー2人に対し「8月末までの謹慎とともにボランティア活動を通しての社会貢献をさせる」とし、受け取ったギャラについてもしかるべき形で返還すべく動いていることを発表した。奇しくも吉本興業の曖昧さに比べ、対応の細やかさがクローズアップされる形となった。

各メディアは、これまでも「闇営業問題」を連日のように取り上げていたが、ここから一層拍車のかかった、いわゆる過熱報道が始まった。私の元にも、新聞、雑誌、テレビ、ラジオを問わず、連日のように取材の申し込みが届いた。放送業界の出身で、テレビ・ラジオにこの上ない愛情のある私だが、あまりの過熱ぶり、刹那主義な報道スタンスに思うところもあり、この件に関する取材は、活字メディアのみ受けることとした。

会長は単独取材に応じるのみ

ここからは、大きな流れを新聞・雑誌に私が残したコメントを中心に振り返ってみたい。闇営業に関わった芸人13人の謹慎が発表された翌日、6月25日付の『産経新聞』朝刊24面では、「初期対応が悪い」という見出しとともに、以下のコメントをした。

    同志社女子大の影山貴彦教授(メディアエンターテインメント論)の話

    「吉本興業に限らず、芸能事務所がタレントの謹慎処分に具体的な期間を示さないのは、世間の『風』をみながら人気タレントを早く復帰させたいという思いがにじむ。今回は入江さんだけを契約解消し、他のタレントを厳重注意で済ませた初期対応が悪い。宮迫さんらが当初、『金銭は受け取っていない』とコメントしたことも致命的だ。事務所は人気タレントこそ早急に処分し、誠意を見せるべきだった」

私は、「初期対応の重要性」をこの一件の後、早くから繰り返し主張し続けた。それが組織のリスクヘッジの基本であることは改めて述べるまでもなかろう。吉本興業は、この「初期対応」のまずさが尾を引くことになる。

吉本興業ホールディングスの大﨑洋会長は、6月28日になって初めて、「本当に申し訳なく思うし、個人的には忸怩たる思いもある」と謝罪した。ただし、これは訪問先のバンコクで共同通信の単独インタビューに答えたもので、この後も大﨑会長は、個々のメディアでの取材対応はインタビューという形では応じたものの、自身が共同会見の場に顔を見せることは、その後現在に至るまでない。こうした対応には、疑問が残る …

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