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REPORT

なぜ誤報が起こるのか? その本質は「人間の弱さ」

塩田武士

2018年8月に、初の短編集『歪んだ波紋』を上梓した塩田武士さん。新聞記者として報道に携わった経験もある塩田さんが、社会に「誤報」があふれる理由や、記者・小説家それぞれの役割を語る。

小説家 塩田 武士(しおた・たけし)
photo/杉能信介

誤報と虚報の違いは?

─新刊『歪んだ波紋』は、「誤報」をテーマにした5編の物語が収録されており、それぞれ虚報、時効、沈黙、娯楽、権力といったサブテーマが設定されていますね。近年フェイクニュースの話題も増えましたが、情報社会における「誤報」とは、どのようなものなのでしょうか。

情報社会となった今は、フェイクニュースや炎上を狙った報道など、様々な情報がこんがらがっています。本書では、これをほぐして考えるために「誤報」というテーマを設定しました。5編の短編を通じてモヤモヤしたものを言葉にしようと考えたのです。

「誤報」は本来、私が新聞記者時代によくやらかしてしまったような、誤植などのケアレスミスによる誤った報道のことを指しますよね。一方で、フェイクニュースともいわれる「虚報」は、炎上目的など悪意のある人間によって意図的につくられた報道です。

こういった時代の中でも、報道の目的は変わらず「真実を明るみに出して伝えること」だと思います。誤報であっても虚報であっても、その奥にある「真実」は腐りません。そういった想いを込めて描いたのが『共犯者』です。

さらに、誤報が生まれる過程において、「沈黙」があるということをあぶりだしたのが『ゼロの影』です。「沈黙することで真実が隠されてしまう怖さ」とともに記者クラブ制度への問題提起を含めた小説になりました。

なお、本書のすべての作品に共通する要素に「人間の弱さ」があります。これが誤報の本質です。スクープが取れないことへの恐怖や、新聞の部数低減に対する焦りなど、様々な「弱さ」があるからこそ、誤報が生まれるのだと思います。

新聞社も騙された記者会見

─「誤報」というテーマで小説を書くことになったいきさつを教えてください。

きっかけとなったのは、2016年9月に朝日新聞と上毛新聞が誤報を飛ばした、「群馬県太田市役所の男性臨時職員が、パリで開かれたゲームイベントで優勝した」というニュースです。

市は男性の活躍ぶりをPRに役立てようと記者クラブで会見を開き、男性も所属部長とともに記者らの取材に応じました。しかし、記事が掲載されたその日のうちに、ネット上で「大会はこの日に開催されていない」「名前を聞いたことがない」などと指摘され、嘘が発覚したんです。

両新聞社はその日のうちにウェブ上の記事を削除しました。上毛新聞社は「報道は事実無根だったことが分かりました」と謝罪文をウェブページに掲載しています。一方、男性は同月末で「職員としてふさわしくない信用失墜行為」を理由に事実上の解雇処分を受けたといいます。

私はこのニュースを見て、「自分が担当記者だったとしても騙されるかもしれない」と怖さを覚えたんです。「市が公式で記者会見を行った」という事実だけで信頼度は増しますし、男性はFacebookでも渡仏したかのように偽装工作を行っていましたから。

同時に、真実に迫ったのはプロの記者ではなく一般市民だったということにハッとさせられました。今の時代は一般市民が5番目の権力を持っているのだと実感したんです。

このことを講談社の編集者と話しているときに、これは「誤報」の「後報」だなという話になりました。そしてその場で仮タイトルが「後報」に決まったんです。「誤報」を小説として昇華することで、その本質に迫ってみたいという思いで、執筆を始めました。

小説で仮説と未来予想を提示

─塩田さんの書く小説は「リアルフィクション」と呼ばれています。元々新聞記者として報道に携わっていた塩田さんですが、現実と虚構との狭間にある小説だからこそ伝えられることとは何でしょうか。

読者には「虚実のどちらなのかが分からない」とモヤモヤする体験をしてほしいと思っています。現実と虚構の間の道を歩きながら思考していただくプロセスが重要なんです。

例えば、2016年8月に出版した『罪の声』のテーマは、現実に起きたグリコ・森永事件(1984~85年)です。この小説のアイデアが生まれたのが21歳のとき。大学の食堂で読んでいた事件の関連本で、犯行に自分と同世代の子どもが利用されたことを知り、「同じ関西にいるとしたら、どこかですれ違っているかもしれないな」と考えるようになりました。

子どもを犯罪に巻き込むなんて考えられないですよね。事件発生当時からグリ森の関連報道は犯人グループと警察の攻防に焦点を当てたものばかりで、「子ども」に注目するものはありませんでした。でも、「この事件の最大の罪とは何か」と考えたときに、次世代を担う子どもの人生に影響を与えてしまったことは大きな罪ではないかと考えたんです。

そこで、現実に起きた事件の「犯行に巻き込まれた子ども」というノンフィクションをベースに、「子どものその後の人生」というフィクションを織り交ぜてひとつの小説にしました。

この小説を含むリアルフィクション作品のポイントは「仮説の提唱」と「未来予想の提示」です。仮説と未来予想を楽しんでいただき、それぞれの読者に思考していただくのが、リアルフィクション小説の役割だと思っています。

─最後に、広報担当者は「誤報」に対してどのような対策ができるでしょうか。

記者としての経験も踏まえて申し上げると、広報活動の際には、できるだけ「広報資料」と「当事者の発言」をクロスさせることが重要です。そうすることで誤解を減らすことができます。

また、原稿をチェックする際には情報ソースの確認とともに俯瞰の視点を持つことが大事だと思います。記者はその記事で最も訴えたい点に意識を集中させて書くので、意外に外枠の文章に誤りがあることがあるんですよね。

さらに、フェイクニュースに巻き込まれた場合ですが、自社で正しい情報を拡散することが最優先事項だと思います。流されたフェイクニュースの深刻度にもよりますが、逆手にとって宣伝に利用できるか否かを考えるのもひとつだと思います。

8月発売の新刊『歪んだ波紋』(講談社)。


小説家 塩田 武士(しおた・たけし)
1979年兵庫県生まれ。関西学院大学社会学部卒。新聞社在職中の2010年『盤上のアルファ』で第5回小説現代長編新人賞を受賞し、デビュー。2016年『罪の声』で、第7回山田風太郎賞受賞、同書は「週刊文春ミステリーベスト10」2016年国内部門で第1位となる。他の著書に、『女神のタクト』『ともにがんばりましょう』『盤上に散る』『氷の仮面』『拳に聞け!』『騙し絵の牙』などがある。最新刊は、2018年8月9日発売の『歪んだ波紋』。

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