企業のSNS公式アカウントの運営において、どのような投稿がファンを形成するのか。人気アカウントを持つ3社のSNS担当者が、コンテンツの選び方や注意点など広告とは異なる、SNSでの「振る舞い」について解説する。
フォロワーとオフ会を開く
―SNS担当に就いたきっかけを教えてください。
本田:元々は東急ハンズ社内の仲間内でTwitterを使っていて、それを見ていた当時の上司がコミュニケーションツールとして面白いから会社の情報発信に使ってみたらどうかと、2009年に半ば強制的に担当に任命されたのが始まりでした。
山田:2012年はTwitterが無視できない存在になっていて、セガグループ内でもすでにいくつかTwitterアカウントを立ち上げて運用していました。それで広報部でも取り組んでみようかということになったのが始まりです。
現在グループ内には約250のSNS公式アカウントがあり、その管理や新規立ち上げ時の相談も私が担っています。普段はタイムラインをチェックして、注意点を指摘したり、eラーニングテストを実施したり、定期的に講習会を開催したりしながら、「中の人」としてツイートもしています。
山本:私は2011年に公式Twitterアカウントを立ち上げ、それ以来ずっと「シャープさん」としてSNSを担当しています。
―ツイートの内容やトーンはどのように決めていますか。
山本:私が東京へ向かう経過を投稿するときもあります。自分が移動する様子ですら、それなりに楽しんでもらえるコンテンツになることが分かってきました。おそらくフォロワーとの関係性が築けてきたということなのだろうと思っています。
本田:私の場合はお客さまが知りたいだろうなと思うことを発信するようにしています。最近反響が大きかったのは、今年1月の大雪の日の「東京23区、多摩地区に #大雪警報 が発令されたようです。東急ハンズに来ている場合ではありません。早めにご帰宅を。」というツイートです。
あの日は「足元に気をつけてご来店ください」というツイートが目立ったのですが、それを見ていて「いやいや、こんなに雪が積もっているのに店に行こうと思わないでしょう」と思ったのをそのままツイートしました。よく考えたら、普通は上司から怒られますよね。結果的にはニュースで取り上げられるほど話題になったので、怒られませんでしたけど。
―会社の上層部の方の目にも留まったとか。
本田:メディアが取り上げてくれたのを見た偉い人が僕の席までわざわざ来ました。あのツイートにはお客さまからのリプライを何百もいただいていたのですが、「本田君、全部返信しているんだね。すごいね!」と言われました。9年前からずっとやってきたのですが、やっと気づいてもらえました(笑)。
山田:セガでは成人の日を迎えた方に、新成人が幼い頃に夢中になったゲーム「オシャレ魔女 ラブandベリー」の主人公に晴れ着を着せて「おめでとうございます」とメッセージを出しました。当時の憧れの存在からのお祝いとあって「さすがセガさん、粋だね!」と、非常に反響が大きく嬉しく思いました。多くの企業が「弊社のこの商品は20周年ですよ」と投稿していましたが、私たちはさらにファンに喜んでもらえる投稿は何か?を意識しました。
先日は16人のフォロワーを招待しセガ公式アカウントのファンミーティング、つまりオフ会を開きました。SNSで交流を深めたファンとリアルでお会いすれば、もっとつながりが深くなり面白いことができるのではないかと思い企画しましたが、応援の熱量を直に感じ、得難い経験となりました。
山本:私はマス広告による企業コミュニケーションを担当していたのですが、当時はお客さんの反応を見たり、ましてや直接話したりすることはありませんでした。ですから、それができるTwitterは非常にモチベーションになりえます。
会議でよく「お客さまの立場で」と言われますが、自分がお客さんとの距離を縮めない限りそんなことができるわけがない。SNSでお客さんとコミュニケーションをしていると、ひしひしとそう感じます。だから自分はシャープ社員であることを半分辞めて、その分お客さんに近づこうと考えたのです。
「私は広告をする人間ではない」
―どのようなツイートをすれば反応してもらえるのでしょうか。
本田:自分のツイートを振り返ると、東急ハンズという企業アカウントが本来伝えるべきだと思われる内容は1割もなくて、お客さまとの会話が8割を超えていました。自分の中ではいいバランスだと思うのですが、来店につながる内容もなければ社内的な理解は得られません。ですからこちらから伝えたい内容をツイートするときは、できるだけお客さまにとって楽しい情報になるように気を配ります。
社内や店舗から「これをツイートしてほしい」という依頼もありますが、そのつぶやきがお客さまにとって面白くないと自分が判断したらつぶやきません。宣伝のためにやっているという意識はまったくなくて、東急ハンズのいちスタッフがお客さまと話をしているという感覚でやっています。
山田:私はセガが大好きなので、その「セガ愛」が伝わればいいなと思っています。SNSでは企業はガラス張りのように見えやすいので、セガ社員である私の好きなものや社員が楽しそうにしている姿を隠さずに見せていくことが当社には合っていると思っています。
ただし、独りよがりにならないように俯瞰してみること。もうひとつ、人も自社も傷つけないこと。この2点を必ず"じぶん決裁"でチェックするようにしています。
山本:極論すると広告はお金で人の関心や認知を買うものです。できるだけ多くにリーチしようとメッセージも大声になる。私のテーマはそういう広告からいかに離れるかということです。マス広告のやり方が間違っているというわけではないですが、広告が届かない、嫌悪されやすい場所では振る舞い方を変えるべきです。
広告とSNSでは世界が違うのに同じように振る舞う人が多いですよね。SNSでは、できるだけ声は小さく、ことばは弱々しくして、「私は広告をする人間ではないです」ということを伝える。そうやってフォロワーとの共犯関係を結んでいきたいのです。
「ハッシュタグで宣伝」の意味
―最後に、企業がSNSを運用する価値について聞かせてください。
本田:タイムラインに出るアイコンを目にしてもらうだけでも価値があると思っています。そこで東急ハンズを覚えてくれさえすれば、何かを買おうと思ったときに東急ハンズに行こうと思ってもらえるかなということですね。
山田:SNSは点在していたお客さまを線でつないでくれます。長期的にお客さまと会話をすることで線は面になり、そこからコミュニティとなって、リアルで会うまでを形成していくことができる。それがSNSの価値だと思っています。
最近では何かが流行るとハッシュタグに安易に乗っかって企業の宣伝をする風潮がありますが、なぜそのハッシュタグが生まれて世の中の人たちが盛り上がっているのか、そこに言の葉をのせている人々は今どういう気持ちなのか、そこを理解してこそフォロワーとの信頼関係が築けると思います。
山本:おっしゃるとおりですよね。「#新生活はどっちもドア冷蔵庫」とか、こちらの都合を押し付けていくと、SNSは単なる広告になる。私はそういうところから距離を置きたい。けれどアイコンが企業ロゴである限り、その言葉は広告ですし、営利目的です。ですからどう見られるかはかなり意識していて、アイコンとツイートの内容にギャップを持たせています。それを読む人が面白がってくれているのかなと思っています。
SNSは広告でありながら、広告ではない見え方でユーザーと中長期でコミュニケーションを築く場所なのかなと、確信を持ちつつあります。