ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
法政大学の田中優子総長は5月16日、次のような声明を出した。「昨今、専門的知見にもとづき社会的発言をおこなう本学の研究者たちに対する、検証や根拠の提示のない非難や、恫喝や圧力と受け取れる言動が度重ねて起きています。その中には、冷静に事実と向き合って社会を分析し、根拠にもとづいて対応策を吟味すべき立場にある国会議員による言動も含まれます」。そして、「適切な反証なく圧力によって研究者のデータや言論をねじふせるようなこと」は断じて許してはならないと述べている。
この異例の声明はネットで広く驚きをもって受け止められた。さらに注目されたのが、明治大学が6月8日に出した「私たちは、田中総長のメッセージを支持いたします」とする土屋恵一郎学長、そして全10学部長連名の声明だった。
そこには「近来、一部国会議員や言論人が、学問の自由と言論表現の自由に対して、公然と介入し否定する発言を行っているのは、憲法を無視しているだけではなく、私たちの日常を支えている、民主主義のモラルを公然と否定するもの」とある。こうした動きに、「他大学もこれに続いてほしい」「誇りに思う」など反響が広がった。
リーダーが出すべきメッセージ
謝罪や処分の発表が多い昨今、大学のトップが組織に属する研究者の擁護と社会に向けた宣言ともとれるメッセージを発信したのは目を引いた。とりわけ、具体的な行為を明示していないのが大きな特徴だ。
何について言っているのか分からないという声も見られたが、ネットを見ていけば十分に推察はできるし、むしろ特定の人物を守ったり抗議したりするのではないところに大きな意味がある。個別ケースではなく、自分たちが大切にしている原則や基準について明らかにしたのだ。またこれによって明治大学も支持を表明することができたと考えられる。
明治大学も、学長だけでなく全学部長と一緒に声明を出したことで、学問領域を超え共通の認識を持っていること、そしてその価値観は自分たちが守らねばならない建学の精神だということまでをも伝えている。リーダーの声明は、何を代表するメッセージなのか明らかにすることが重要なポイントだ。
姿勢の表明が求められるとき
今回のケースは、米国でトランプ大統領が就任した際、企業のトップが次々に政治姿勢を明らかにしてメッセージを発信していた場面を想起させる。それは自分たちが大切にしてきた価値観やスタッフの雇用に関わる重要な論点について、声をあげなければ失われてしまうことを懸念する切実なメッセージの数々だった。これらは今、CEOアクティビズムという概念で組織トップが知っておくべきテーマのひとつとして認識されてきている。
ソーシャルメディアで異世界の見解がぶつかり合いやすくなっている今、組織として必要なタイミングでしっかりしたメッセージが出せるよう、アンテナを張っておきたい。
社会情報大学院大学 客員教授・ビーンスター 代表取締役社会情報大学院大学客員教授。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ50万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net |