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YouTuber VS ホテルの勝敗は?

鶴野充茂(社会情報大学院大学 客員教授/ビーンスター 代表取締役)

ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。

イラスト/たむらかずみ

YouTuber VS ホテルの勝敗は?
YouTuberが宣伝を条件にホテルに無料宿泊を要求した。ホテル側は自身のFacebookでメールを晒すなど対抗し、ネット上では擁護と批判の声が上がった。


YouTuberがホテルに対し、自身のSNSでの宣伝を条件に無料宿泊を要求。ホテルは名前を伏せてFacebookでメールを紹介し「答えはノーだ」と投稿した。これをきっかけにネット上で両者の衝突が始まった。

英国のエル・ダービーさんは、22歳の自称「ソーシャルメディア・インフルエンサー」。アイルランドの首都・ダブリンへの旅行の際、約9万人のフォロワーを持つ自分のYouTubeとInstagramで宣伝するから、恋人と一緒に5泊タダで泊めて、とホテルにメールを送った。

これを受け取ったホテル「The White Moose Cafe」オーナーのポール・ステンソン氏は、自分たちは人気ホテルで断らねばならないほどの予約が来ており、無料で泊めたら一体誰が人件費を払うのか、また自分たちのホテルのSNSアカウントのフォロワー数も十分に多いなどとして、名前を伏せた形でホテルのFacebookページにメールの返事を投稿した。

共通の「正しい答え」はない

メールを晒されたダービーさんは自身のYouTubeで反論。「私が申し出たことはブロガーだったら普通のこと」「(むしろ)報酬をもらうのが普通だし、彼はホテルで働いているんだからそれを知っているはずよ」などと語った。

これにホテル側は激怒。「今後すべてのブロガーお断り」とFacebookに投稿した。いきなりメールを晒して反論するという好戦的な姿勢は接客業としてどうかなどとホテル側の姿勢を批判する声もあれば、YouTuberの姿勢に嫌悪感を示す声もあり、感情的なコメントが入り乱れたが、結果的にホテル側には支持する声が多数集まった。

こうした「インフルエンサー」たちとの関係をどうするかについて、決まった答えはない。プロモーションの力を借りようと思えば協力すればいいし、必要ないと思えば積極的な関わりを持つこともない。「インフルエンサー」のビジネスモデルは露出を上げることなので、今回のように彼・彼女たちの方から露出の対価や条件を持って打診してくることもある。その要不要を判断する。それ以上でも以下でもない。

同ホテルは以前から、自分たち自身でネット上の活発な情報発信を続けていた。オーナーの歯に衣着せぬ物言いも名物になっていて、過去にも発言で炎上を招いてきたが、その考えを支持する人や面白がる人たちがファンとなって集まっていた。今回、「ブロガーお断り」などとネット上の発信力の強い人たちを敵に回す発信をしたことで、レビューサイトなどに悪評が書かれたが、今回の騒動でその数をはるかに上回る熱烈な支持コメントを集め、かえって得点が上がっている状況だ。

もちろん簡単に真似できるような形ではないが、衝突を避け穏便に済ますこと自体を目的化しがちな企業、そして広報にとっては、自分たちが一体どんな人たちを顧客と捉えてビジネスをしているのかを忘れないこと、そして一貫性のあるメッセージが重要だということを思わぬ形で確認することになった事例といえるだろう。

社会情報大学院大学 客員教授・ビーンスター 代表取締役
鶴野充茂(つるの・みつしげ)

米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。2017年4月から社会情報大学院大学客員教授。著書はシリーズ50万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。
個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net

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