あなたがもしも、社内で「わが社のリブランディングを進めよ」と言われたら──?そもそも企業ブランドとは何か、そしてどんなときにブランドを見直すべきか。ロゴやツールの刷新だけではなく、プロセスを重視し実践する際のポイントを解説します。
根強いファンをつくり、ファンを広げていくことで「信頼され、愛される会社」を目指す「企業ブランディング」に、今、あらためて注目が集まっています。
「ブランディング」とは、端的に言えば「モノ」から「ブランド」へ、企業や商品の「ブランド化」を推進することです。では「ブランド化」とは何か。例えば、普通のお米とコシヒカリを出されたときに、ついついコシヒカリを選んでしまう。コップで出されたただの水とエビアンのペットボトルを出されたときにエビアンを選んでしまう。それが一般的な「モノ」と「ブランド」の違いと言えます。
つまり、コシヒカリやエビアンという名前によって、生産地や味、値段など、過去の経験や知識からその名前の背景にある何かしらの価値やイメージが想起され、他のモノと差別化できるから選ばれるようになる。そこが一般的なモノと、「ブランド化」されたモノとの違いであると言えるでしょう。
「ブランド」に変わると消費者の行動に変化が起きます。他のものとの違いが分かるので選ばれやすくなり(選好性)、好きになってもらえれば長く選ばれ続け(継続性)、ファンになってくれれば価格が高くても選んでくれます(プレミアム性)。これらによって企業は継続して高い収益を得ることができるようになるのです。
ブランディングでやるべきことは、「BRAND」と「ING」の2つの要素に分けて考えると分かりやすいかと思います(図1)。BRANDは「あるべき姿を規定してカタチにする」、つまり自分たちの会社は何を目指しているのかを明確に定義し、それを言葉やデザインでカタチにするというアイデンティティ開発。INGは、「あるべき姿をあらゆる活動を通じて、伝え、浸透させる」コミュニケーション活動と言えます。
このとき気をつけたいのは、「積極的に企業広告を打ち出そう」とか「ホームページのデザインを変えよう」といったように、ついINGの部分ばかりに目を向けてしまうことです。それよりまずBRANDの部分、つまり「あるべき姿」を明確にすることが重要です。そうしないとコミュニケーションに一貫性がなくなり、効果的に価値やイメージを蓄積できないからです。
ブランドを見直す転機とは
では、BRANDの部分、「あるべき姿」を明確に規定すべきタイミングとはどのようなときでしょうか。主なきっかけを挙げてみます(図2)。
(1) 合併や統合によって新しい会社が設立されるとき
(2) 周年を迎え、次代へ向けた長期ビジョンを検討するとき
(3) グローバル展開を加速するとき
(4) 自社の事業領域が曖昧になってきたとき
(5) 企業の転換期にこれからの成長戦略を検討するとき
(6) 不祥事や経営不振から企業イメージを一新するとき
↓
Step 1 あるべき姿を見つける
Step 2 あるべき姿を言語化する
Step 3 あるべき姿を見える化する
Step 4 あるべき姿を伝え、浸透させる
(1) 合併や統合による新会社設立
企業が合併や経営統合をするタイミングは、社名が変わりますしロゴやスローガンを作成し直す必要があります。そして何より企業文化の違う会社同士がひとつになるわけですから、互いの企業文化を尊重し、それぞれの企業の強みや特徴を融合させて新たなビジョンを掲げる必要が出てきます。
(2) 周年を迎え長期ビジョンを検討
50周年、100周年など、企業の節目は長期ビジョンを見直すタイミングでもあります。どんな会社も、創業時は「何のために起業したのか」といったミッションが明確です。社員数100人くらいまでは、社長が直接語ることで、社員にも会社のあるべき姿が自然と浸透します。
けれども歴史を重ね、事業が増え、社員が増え、組織が大きくなればなるほど、創業時のDNAを浸透させていくのは難しくなります。周年事業で、あらためて強みや価値観を確認し、将来のあるべき姿を導き出すことはとても意義のあることです。
(3) グローバル展開を加速
国内では既に顧客が固定されていて、あらためて自社の存在や価値をアピールする必要性を感じていなかった企業でも、海外において新しい顧客や取引先を開拓しようとする場合は、自分たちがどんな会社でどのような価値を提供できるのかを示す必要があります。
また国内で使用していた商標が使用できない、あるいはネガティブな印象を与えるためにブランドを見直さざるを得ないときもあります。
(4) 事業領域が曖昧になってきた
事業の拡大や多角化などで、事業領域が曖昧になったり、業態が変化してきたりして、事業を再整理する必要が出てくるということもあります。「〇〇工業」「〇〇製作所」など社名に業態を示す言葉が入っている場合、時代とともに自分たちがカバーする事業領域が示しきれなくなり、社名の見直しを含めて自社のあり方を考えるケースも多いです …