複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新のケーススタディを取り上げて解説する。
2017年11月29日、大相撲の横綱日馬富士が引退を表明し大きな話題となりました。記者会見では、引退理由について「秋巡業中に行われた酒席で貴ノ岩にケガを負わせたことに対して、横綱としての責任を感じた」と説明。12月11日には傷害の被疑事実によって書類送検されました。
この事件に関しては、日本相撲協会や貴ノ岩の師匠である貴乃花親方の言動が注目されています。広報担当者は、この事件をただの芸能ニュースとして眺めていてはいけません。会社に例えて考えれば、自社の営業所(伊勢ケ浜部屋)の営業トップ(日馬富士)が別の営業所(貴乃花部屋)の営業マン(貴ノ岩)に傷害を負わせ、事件を巡って被害者の上司である営業所長(貴乃花親方)と会社(相撲協会)の姿勢が対立している、という構図として理解できます。
社内で類似の傷害事件や従業員のトラブルが発生したときに、広報はどう対応すべきかを学ぶ事件として参考になります。
「過去から学んでいない」危機管理対応
直近10年だけを見ても、過剰な「かわいがり」によって新弟子が死亡した力士暴行事件(2007年)、元横綱の朝青龍が泥酔し一般男性を暴行した事件(2010年)、部屋付き親方が一般男性を金属バットで殴打した事件(2015年)と、力士や親方による暴行・傷害事件が3度も起こりました。2011年に明るみになった八百長事件なども含めて、角界を取り巻く事件が連続して発生したことで日本相撲協会は社会からの信頼を失い、その存在意義を問う声も出てきました。
このような状況下で起こった今回の事件。営業部門のトップともいえる「横綱」が、過去の事件に類似する傷害事件を引き起こしてしまったのです。「過去から何も学んでいない」と批判されても仕方がありません …