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記者の行動原理を読む広報術

2種類作成が必須!? 記者が反応するプレスリリースのポイント

松林 薫(ジャーナリスト)

プレスリリースを書くとき、どんな言葉を盛り込めばいいのだろうか。これには記者にとっての「ニュース価値」とは何なのかを知っておく必要がある。

筆者が関西大学で担当している「ネットジャーナリズム実習」では、実際の商品発表のプレスリリースをもとに記事を作成する回がある。授業で使うため、事前に様々なリリースに目を通すのだが、毎回、「広報になっていない」ものの多さに驚かされる。

どういうことか。ひとことで言えば、単なる「宣伝文」が、あまりにも多いのである。広報担当であれば「報道」「広報」「宣伝」の違いは最初に学ぶはずなので、ここでは繰り返さない。要は、商品概要をキャッチフレーズで飾り立てただけの、客観性に乏しい文章が目につくということだ。

もちろん、そこから客観情報を選び出して裏を取り、追加取材をして記事にするのが記者の仕事ではある。しかし、なにしろ忙しいので、必要な情報が欠けているリリースを見ると面倒くささが先に立ってしまう。採否の判断は一瞬で下されるので、宣伝臭が強いリリースは損をするのだ。

「記事」を書ける広報は強い

では、記者の目に留まるにはどうすればいいのか。これは、記者の立場に立ってみればすぐに分かる。究極のリリースとは、見出しから文章までコピペすればそのまま記事になるものだ(実際にはやらないが)。理由はいうまでもなく、楽ができるからである。

前回取り上げた「スクープ」とは逆に、「発表処理」は記者としての評価につながらない作業だ。大事だとは分かっていても、取材や執筆になるべく手間をかけたくないのが人情なのである。

もう10年以上前の話だが、新聞記者をしていたころ、リリース処理を恐ろしく効率的にこなす先輩がいた。担当企業からリークされた「預かりネタ」もたくさん抱えていて、デスクやキャップから「今日、何か暇ネタない?」と言われると、即座に出稿してしまう。

不思議に思ってコツを聞いてみると、なんと「広報担当者を指導して、一般向けのリリースとは別に、ほぼそのまま記事になる自分向けのバージョンをつくってもらっている」ということだった。いわば広報を「教育」して記者にしてしまったのである。

さすがにこれはやりすぎだと思うのだが、実は重要な教訓も含んでいる。というのも、この先輩の担当企業が出すリリースは、「一般向けバージョン」の方も情報の過不足がなく、取材対応も極めて的確だったからだ。

裏返せば、良いリリースをつくる第一歩は、自分たちの発表をもとに、メディアがどんな報道をするかを正確に予想するということだろう。これは不祥事会見などの対応でも同じだが、事前に新聞に載るであろう記事を書くことができる広報は最強だと思う。リリースや想定問答は、そこから逆算してつくればいいからだ。

こうした技術を身につけるのは難しそうだが、教材はいくらでもある。他社のリリースを読んで、自分で記事を書いてみればいいのだ。報道機関が実際に報じた記事で「答え合わせ」をすれば、記者がどんな部分に反応するのか、どんな書き方をするのかが分かるはずだ。

中小企業こそ新奇性を意識せよ

それには、記者が何にニュース価値を感じるかを正確に理解する必要がある。これは媒体によって異なるが、一般にニュース価値の判断で重視されるのは、「社会的影響」「読者の関心」「新奇性」の3要素である ...

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