日本の食文化の担い手として、海外展開を強化するキッコーマン。ブランドの一端を担うコーポレートコミュニケーション部長の臼井一起氏に、広報パーソンに求められる姿勢や取り組みについて聞いた。

キッコーマン 執行役員 コーポレートコミュニケーション部長
臼井一起(うすい・かずき)氏
慶應義塾大学経済学部卒業後、1981年キッコーマン入社。営業スタッフ、営業、営業企画、商品企画を経て、92年から広報部(当時)。2000年からIRも担当する。2008年中部支社長。2011年コーポレートコミュニケーション部長。12年から現職。

[聞き手]
社会情報大学院大学 学長 上野征洋(うえの・ゆきひろ)
日本広報学会副会長、静岡文化芸術大学名誉教授。2012年、事業構想大学院大学副学長を経て現職。内閣府、国土交通省、農林水産省などの委員を歴任。早稲田大学卒、東京大学新聞研究所(現・大学院情報学環・学際情報学府教育部)修了。
広報に求められる「3つのS」
上野:キッコーマンは今年、会社設立100周年と伺いました。しょうゆづくりを始めてからは350年以上の歴史を持つ老舗です。現在は海外にも積極的に展開し、世界で注目される日本の食文化を発信する役割も担っています。臼井さんは20年以上の広報歴をお持ちですね。部員の皆さんに広報の仕事について語る機会も多いと思いますが、どんな話をしていますか。
臼井:コーポレートコミュニケーション部のメンバーには、我々は「情報」という商品を扱う「商人(あきんど)」である、という話をよくします。営業が自社の商品を扱うのと同じことです。私たちの意図が相手に伝わり、理解され、活用されて初めて意味のあるものになる、それが「情報」です。言い換えると、「データ」を「インテリジェンス」にして、意味を持たせるということ。鮮度のいい情報や品質のいい情報に加工して、流通させることで会社に貢献するのが私たちの仕事です。
基本方針は「3つのS」。「Share(共有する)」「Speed(スピード感)」「Sincerity(誠実さ)」です。
「Share」とは、「共有(シェア)」からすべてが始まるということ。人とコミュニケーションを図ろうとするとき、まず時間を共有し、相手の興味や関心をインプットします。そして相手の「マインドシェア」が高まるという流れです。情報を提供して記事にしていただくケースでも、記者と多くの時間を共有して仲良くなっておいた方が、何かの際に思い出して連絡してくれる可能性が高くなります。
こうした積み重ねで、我々とメディア関係者との間に、張り巡らされたネットワークを築くことができる。そこで生まれるコミュニケーションをもとに、さらにネットワークが広がっていきます。
「Speed(スピード)」も大切です。あらゆるメディアには締め切りがありますから、信頼されるためにはスピード感をもって対応することが重要。「Sincerity(誠実さ)」については、キッコーマンの情報は役に立つと信用してもらうためには、我々がまず誠実でなければならない、ということです。
上野:おっしゃる通り、時間・関心・マインドを共有することは、まさしく究極の広報だと思います。スピード感や誠実さも言わずもがなで、「3つのS」は理にかなったキーワードです。もっとも、実践するのは容易ではありませんね。
臼井:広報担当として仕事を始めた当初は、ネットワークを広げるにあたって、まったく面識のない記者たちとどうやって時間をシェアしようかと悩んでいました。思いついたのが「コバンザメ作戦」です。他社の広報担当者と仲良くなって、彼らが記者と飲みに行く際に連れていってもらうのです。そういうことを繰り返して、記者との距離を縮めていきました。仕事にかこつけて、夜遅くまで飲んでいただけですけど(笑) ...