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広報担当者の事件簿

市役所で汚職発覚、職員は市民のために働いているのか?

佐々木政幸(アズソリューションズ 代表取締役社長)

    市民離れした役所、繰り返される汚職<前編>

    【あらすじ】
    地方都市H市の職員として働く豊田広介は、支所の総務係で日々、市民と接する仕事に向き合っていた。その姿勢に以前から注目していた市民広報課長の沢野毅彦によって、広介は広報課に異動、マスコミ対応を学ぶ毎日へと変わっていた。ある日、沢野から告げられた役所と業者の癒着、マスコミ対応の担当に指名された広介は──。

    癒着発覚

    「わー、かーわいい」。女子高生の嬌声が聞こえてくる。「これなんていうマスコットかなあ?初めて見るね」「でもかわいー」。着ぐるみの内側から覗くと地元の高校に通う女子高生と思しき3人組。広介に抱きついてくる。正確に言えば広介にではなく、H市の新マスコット"サンミャ君"にである。

    日本海と山々に囲まれたのどかな地方都市H市。新マスコットは、市民からの応募で山脈にかけた名前に先月決まったばかりだった。今日はサンミャ君にとって晴れのお披露目の場。女子高生3人が次々に抱きつき記念写真を撮ろうとはしゃいでいる姿を、遠目に様子見していた他の女の子たちも近寄ってきた。

    それを見ていたおじさん、おばさんから、おじいさんおばあさんまでが集まり、お腹をナデナデ、背中をスリスリ、しまいにはお決まりのVサインで記念写真。女子高生から抱きつかれたときは、少々照れながらも悪い気はせず「まいったなあ」とにやけていた広介だが、加減を知らないおじさんやおばさんたちは両手でバンバン叩いてくる。

    「あらー。こんなマスコットいたかねえ」「いんやー、いねがったべ」「だよねえ」。すかさず、市の職員が「今月から登場した新しい市のマスコット"サンミャ君"です」と説明している。「さんま君?」「いやいやサンミャ君です」とフォローすると「そんな英語みってえな名前つけんでねえ」といじられる。「いやいや」と苦笑しながら応じ、市民の方々の投票で……と役所らしいことを言う。

    そんなやり取りにまったく興味がなく、ただただ早く着ぐるみから脱出したいと願う広介は、おじさんおばさんの対応をしている職員の肩を叩き、"あっちに行きたい"と左手を伸ばす。初めて見るサンミャ君のその姿に「かわいい」とまた声があがる。しかし、H市役所の職員である豊田広介は、思うように新鮮な空気を吸うことができず、サンミャ君の中であえいでいた。

    抱きつかれながらも「早く出してくれー!」と小声で叫んでいると、思いが通じたのか、職員2人が人垣を遮りながら、控室に通じる通路をつくってくれた。「ふー。暑い……」サンミャ君の頭を脱ぐと顔中に汗をかいていた。「おー、おつかれー。人気だねえ」と今しがた通路をつくってくれていた市民広報課の沢野毅彦がからかう。

    「あれ?どうしたんすか、お久しぶりです。課長も被ります?きっと人気が出ますよ」と広介がサンミャ君の頭を抱えながら言い返す。「お前、俺に人気がないとでも言うのか」「あるなんて聞いたことない」と笑う。

    広介と沢野は知らない仲ではなかった。広介は、市内にある支所の総務係でイベント企画を担当している。高校を卒業しH市の採用試験に合格して職員となり4年。ほぼ毎週、何がしかのイベントを経験していた。

    そして、H市が過剰な接待に浸かっていた2年前。8月上旬の週末に控えていた夏の最大のイベント、花火大会の準備に大忙しだった。通常、市長や副市長をはじめ、多くの関係職員が観覧にやってくる。だがこの年は違っていた。市長、副市長はもちろん関係職員がオンブズマンやマスコミから連日追及を受けていたのだ。

    《過剰接待に揺れるH市》、インターネットニュースやSNSが …

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