本誌の調査によれば現在、42.1%の企業が海外向け広報に取り組んでいる。言語も文化も異なる海外のマーケットでは、日本と同様の手法は通用しない。8つの国・地域に現地法人を持つベクトルが指南する、グローバルPRのポイントとは。
グローバル市場向けの広報活動への対応を迫られている企業は少なくない。今回の本誌の調査によれば、日本法人・現地法人含め「グローバル市場向けの広報活動を実施している」と答えた企業は42.1%となり、前年の34.2%から増加している。企業規模を問わず「現在は着手できていないが、2017年こそは取り組まなければならない課題」と考えている企業も多いのではないだろうか。
とはいえ言語も文化も異なる海外向けの広報活動は、日本と同様のやり方では通用しない。「現地法人に任せきりになっており、現地が何をしているのかきちんと把握できていない」「そもそもどんな活動から着手すればよいのか分からない」という悩みが編集部にも多数寄せられている。
現地事情を捉えた施策が必要
ベクトルグループでは2011年から海外事業を開始し、中国の上海・北京への進出を皮切りに、香港やシンガポール、台湾、タイなど、アジア・ASEA N地域を中心とした8つの国・地域で12拠点(アライアンス含む)を構えている。BtoC企業だけでなくBtoBや官公庁、自治体など幅広い分野の企業にデジタルPR、セールスプロモーションなどの戦略プランなどを提案してきたが、各地の生活者のインサイトはそれぞれ違いがある。「国が違えば文化はもちろん、商習慣やSNSの使い方までまったく異なる。現地のインサイトも日本とは驚くほどに違うのです」と海外事業本部の池元大部長は語る。
海外マーケットで重視される日系企業の活動のひとつとして、池元氏はCSR活動を挙げる。「海外の人は日本企業のCSR活動への取り組み、姿勢をよく見ています。例えば、タイは仏教の考え方が浸透しているため、困っている人を手助けするカルチャーがあります。そのため寄附など社会性の高い施策に対する評価が高く、現地での企業価値向上につながるのです」。
さらに現地事情を把握しないまま、はじめてグローバル広報に着手した担当者が戸惑いがちなのがビジネス慣習のギャップだ。「言語以外にも、PR関連の習慣も異なります。例えば日本ではメディアキャラバンを実施するケースをよく見かけますが、メディア会社のオフィスを訪問して説明することができない国もあります。また、記者が時間にルーズで取材に遅れて来るのは当たり前、という感覚もある。日本のメディア対応の常識は通用しないと考えていたほうがいいでしょう」。
ローカルのPR会社などに業務を委託する際も、制作物のディレクション方法に悩む企業は少なくない。コストとのバランスを考えながら、いかに海外でも企業のブランドイメージを保つかが課題となりがちだ。
日本と現地法人の架け橋に
ベクトルは現地にも日本人社員を派遣することで、「日本のスタンダード」と「現地事情」の双方を捉えた施策を提案できる点に強みを持つ。グローバル広報は日本にある本社が管轄する場合と、現地法人が中心となって進める場合があるが、日本の担当者が「現地の事情を把握しきれない」という悩みは多い。
そこでベクトルの各国法人が介在することで、現地事情を日本に伝えるとともに、現地法人同士が連携してPR施策を提案することが可能となる。ローカルなコミュニティにネットワークを持つ社員も多いため、様々なステークホルダーのニーズや現地のトレンドを正確に、タイムリーに把握できる点も強みだ。「現地法人は日本の本社から共有されたプランに対して『なぜこういう施策をとるのか』という目的を理解することが難しい。その間に私たちが入ることで、現地と国内のコミュニケーションが円滑になります。それがひいては、本社と現地双方の広報チームのモチベーションの向上や、認識の齟齬の解消につながっていくはずと考えています」。
アジア横断型のプロジェクトも
日本では2020年の東京五輪を控え、インバウンド、アウトバウンドともにグローバル化の流れが加速することが予測される。その中で、これからのグローバル広報とはどうあるべきなのだろうか。池元氏は、「最初から一つひとつの細かい施策を考えるよりも、まずはゴールを設定することが大切」と指摘する。
例えば同社には「海外向けプレスリリースを作成してほしい」という依頼も多く寄せられるが、「本当にその国に響く商品なのか」「その商品をPRする手法として、プレスリリースが最適なのか」といった根本的な問題を考える必要があるのだ。「海外では日本にあるような業界ごとの専門誌も少なく、力のあるメディアも様々。日本とは事情が異なる以上、アプローチの方法を考えなければ、広報活動にかける費用対効果が見合わなくなってしまうケースも多々あります」。
国内向け広報と同様のセオリーでは日本で見込めるような効果を期待できないことも多い。同社では現地の特性を踏まえてコンサルテーションできる体制を整えており、最近ではアジア横断型のプロジェクトを請け負うケースも増えている。
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