企業には、子どもの成長や教育に寄与する知見や資産が多数眠っている。その教育的価値を企業や商品のブランディングにもつなげようと、学研イノベーションでは企業と教育現場をつなぐ、学習の場を提供している。
コーポレートブランドの向上は企業の広報・CSR部門にとって常なる課題である。その中で、未来を担う子どもたちの教育・成長機会につながる企業活動の実現に関心が集まっている。
学研ホールディングスから分社し2015年に設立された学研イノベーションでは、企業・自治体と連携した新規事業の開発に取り組んでいる。中村基孝社長は「企業や自治体の方々に子どもたちの教育に参画いただき、未来を担う人材を育成することは、企業価値の向上にもつながる」と、その背景を説明する。
小学生と保護者の手元に届ける
同社は2015年、小学校にクラス単位で配布するフリーマガジン『ソトイコ!』を創刊。全国2100の国公立小学校に配布することで、72万人の児童や100万人超の保護者に情報を届けてきた。誌面は「学校体育の家庭実践」「生活習慣の改善」「野外活動の促進」という3つの軸で構成されている。
注目すべきは、企業や商品・サービスを切り口としたコンテンツを盛り込んでいる点だ。最近では食品メーカーや自転車協会などの商品を例に、「生活習慣の乱れ」「体力低下」など近年の子どもたちの課題について扱っている。企業にとっては、マーケティングやCSVの観点から、商品やサービスなどの「活きた教材」を提供する。
「学研グループはこれまで多くの教育事業に取り組んできたため、学校や保護者が抱える課題を理解している点が強み。どんな切り口で企業の価値を提示すれば、各社が保有する教育の現場や子育てに役立つ価値を浸透させられるか、読み応えあるコンテンツで伝えることができます」。
本誌連動でリアル体験を提供
『ソトイコ!』は読み物であるだけではなく、本誌を起点にしたイベントを企画し、体験の場を提供している点も強みだ。例えば、誌面でキャンプなどのアウトドアを楽しむ機会を提案したり、実際にスポーツフェスタなどを主催したりすることによって、家の中から子どもたちを外に連れ出すきっかけをつくる。
特にメーカーや小売店とのタイアップで企画する工場や店舗の見学は子どもたちやその保護者からも人気だ。学校で教わる科目では知ることのできない社会のリアルな現場に、子どもたちは興味津々だという。
「今、教育現場ではキャリア教育が注目されています。子どもたちが自らのキャリアを考える際、必要なのは、リアルな社会体験による学びだと思っています。それを当社は夏休みの自由研究プログラムとして提供しています。自由研究を通じて小さいころからリアルな社会と接点を持つことで、将来自分が何をしたいのか、未来を考えるきっかけになるはずです。こうした体験を通して『社会はいろいろな人の力によって成り立っている。自分もその一人になるんだ』ということを感じてもらいたいのです」。
企業側も子ども向けに体験の場を設けることで、事業や商品・サービスの延長線上でCSR活動を実現できる。イベントでは商品開発や研究に携わっている社員が子どもたちの「先生」役を務めることで、参加した社員にとって働くモチベーションや自社を誇る気持ちを醸成することにもつながる。また、イベントレポートが『ソトイコ!』でも紹介され、全国の小学校に届けられる点も好評だ。
従来はBtoC企業との協業が多かったが、今後は“縁の下の力持ち”として社会を支えている企業との企画を増やしたいという。
「一般には知名度の低いBtoB企業でも生活者とのコミュニケーション機会を増やしたいと考えているはず。子どもたちにとっても、見えないところで自分たちの快適な生活を支えている企業の存在を知ることは意義があります」。
アース製薬との共同企画例が
蚊の予防対策啓発活動に貢献
タイアップ企業の一例に家庭用殺虫剤などで知られるアース製薬がある。近年、デング熱やジカ熱が世界的な問題となる中、同社では蚊の予防対策啓発活動に積極的に取り組んできた。
その一環としてタイアップが実現。商品を列挙するのではなく「ヤブ蚊はいつから血を吸いにくるの?」という視点で、「この夏必見! 蚊のことを学んで、蚊にさされない方法を知ろう!」というテーマを設定した。蚊の生態や予防対策について、殺虫剤ブランドマネージャーの渡辺優一氏が講師となって解説する構成だ。
渡辺氏は小学生を対象に、蚊の生態や対策方法の出張授業も行っている。「これまでは、商品を購入する消費者とコミュニケーションを取るチャンスが少なく、小売店の方に営業することが定石でした。出張授業をはじめ誌面タイアップは、私たちが本当にアプローチしたい子どもたちやその保護者とダイレクトに関わることができる良い機会です」。
2016年8月には『ソトイコ!』と連動し、「アース製薬 研究・実験ツアー」として兵庫県赤穂市にある研究所に子どもたちを招待。蚊などの様々な害虫の飼育施設の見学や殺虫剤の効き目などを実験・体験する機会を設けた。
「今回のようなリアル体験を通して、蚊の生態や予防方法についての正しい知識を広め、小学生とその保護者が安心して生活できるようにサポートしていきたい」と抱負を述べた。
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