昔、放送作家をしていたころの話である。某テレビ局の編成担当から「鬼ごっこ的な番組をつくりたい」というオーダーが僕のところに来た。
放送作家の仕事は、自分がゼロから企画を立ち上げるのは稀で、大抵はテレビ局や制作会社から相談を持ち掛けられ、何度か会議を重ねて企画を詰める。ある日、鬼の見せ方が議題になった。「作戦本部を設けて大袈裟に見せる?」「鬼の役に有名陸上選手を起用しては?」──様々な意見が出る中、僕は今ひとつピンと来ていなかった。鬼と子の対立軸を煽るのはバラエティの王道だが、リアリティに欠ける。その時、僕は閃いた。
「そうだ、いっそ鬼の視点をやめて、子の視点のみにしません?鬼は感情がなく、ただ追いかけるマシーン。子はひたすらドキドキしながら逃げ回ります」──皆、戸惑っている。僕は続けた。「これは、逃げる側の視点のみで描く、リアルな逃走劇です。その先の角を曲がると、鬼がいるかもしれない。だが、それはお茶の間も...
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