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ダイレクトマーケ 勝利の条件

ダイレクトマーケは地方を救う一手となる

岩永洋平氏(ADKマーケティング・ソリューションズ)

メーカー通販から専業大手だけでなく、各地域の中小企業やベンチャーなど約30社をクライアントに持つ、ADKマーケティング・ソリューションズの岩永洋平氏。既存指標に現れない顧客理解を通じ、現場実践と研究の接合点で見えてきた、ダイレクトマーケティングの地域貢献とは。

(画像=123RF)

いっそう重要度の高まるダイレクトマーケティング

メーカーのマーケターがダイレクトマーケティングに注目すべき理由は、まずは小売との垂直的競争が挙げられるでしょう。大手流通チェーンはイオングループとセブン&アイ・ホールディングスにほぼ集約されました。さらにアマゾンや楽天のECモール、成長が見込まれるネットスーパーなど、それぞれの局面で小売業はメーカーに対する優位性を高めつつあります。

今後、いっそうチャネルリーダー(※1)のポジションはメーカーから支配力を強化する小売の側に移行し、小売間の競合のなかでメーカーが形成したい付加価値はじわじわと食い潰されていきます。メーカーがこうしたヘゲモニー(覇権)から脱出する手段のひとつが、メーカーと顧客が直接につながり、付加価値を形成するダイレクトマーケティングです。

※1 マーケティングの中でも特にチャネルで主導的役割を果たす企業。かつては卸売、メーカーがその位置についていた経緯がある。

もうひとつの理由は近年、販売促進の活動において初回購買獲得(アクイジション)と、2回め以降の再購買獲得(リテンション)が区分されて、後者の重要性と可能性が高まっている点にあります[図表1]。

図表1 二つのマーケティングファネル

通常、マーケティングのファネルはひとつで図示されますが、これからは向かい合う二つのファネルとして、とらえるべきではないかと考えています。商品の初回購買後のリテンションは、事業収益の点からとても重要です。

一般に初回購買の獲得と比較して、2回め以降の購買あたりマーケティング費用は顕著に低いことが知られています。ということは初回購買を継続的な再購買に誘導できれば、事業の収益性を高められます。ただし、リテンションの施策を有効なものとするためには、購買履歴で顧客を識別し、それぞれの顧客にアプローチする手段が必要です。

識別やアプローチ手段を調達しやすいB to B事業や、狭義のダイレクトマーケティング事業(いわゆる通販)は、従来から新規顧客と継続顧客を区分し、それぞれに対応しています。

しかし一般消費財の事業は多くの場合、顧客データベースを持つことが難しいものです。そのため、アクイジションやリテンションは、市場導入のタイミングでは意識されるものの、顧客を区分した再購買促進のアプローチを継続することは容易ではありませんでした。

近年ではICT技術の発展に伴うメディア環境の変化が、一般消費財事業にもリテンション施策展開の現実的な手立てをもたらしつつあります。EC、モバイル、顧客データベースおよびデータマネジメントプラットフォームを活用し、オンラインを主戦場として、2回め以降の購買を狙った施策が広く実践されるようになっています。

メーカーのマーケターが自社のブランドの付加価値を高めるため、また再購買を促すリテンション施策を実践するためにも、顧客との双方向コミュニケーションによって持続的な関係を取り結ぶ、広義のダイレクトマーケティングの重要性はいっそう高まっています。

獲得と維持のはざまにある失敗への落とし穴

ダイレクトマーケティングの事業に取り組む企業が陥りがちな失敗の要因もまた、アクイジションとリテンションの区分に関連します。経験的に既存顧客への販売にかかる費用は新規顧客獲得の費用の5分の1である「1:5の法則」があると言われています。

逆に言えば、新規顧客の獲得には再購買の少なくとも5倍の投資が必要であるということです。実際はこの比はもっと大きい場合もあります。

このため既存顧客が不在で新規顧客が必要な、商品発売初年の顧客獲得投資額は売上対比で50%、100%以上になることもありえます。

顧客獲得投資の多くは広告費です。経済メディアなどで紹介される広告費対売上高比率は、数%から多くても20%程度。多くの経営者が、売上高の半分あるいは同等の広告費を投じる計画に二の足を踏むのも、不思議はないのかもしれません。

うまく事業をローンチできても、「広告費は売上高の10%以内に抑えろ」などと、予算計画への指示がなされたりします。これでは事業の成長は得られません。

このような事業成長への阻害要因を排除するためには、ダイレクトマーケティングの採算構造をマネジメントレベルが理解する必要があります。事業の一定期間の運営後に顧客の購買データを分析すれば、既存顧客からの収益は比較的、安定した見通しが立てられます。事業採算見通しを踏まえ、柔軟で機動的な予算運営が図られるべきであると考えます。

現場レベルにおいては「獲得効率のワナ」のリスクがあります。たとえば新規顧客獲得のメディアを効率のよいセグメントに絞り込むほど獲得効率は向上します。その一方、客数は減少し、一時的に事業の利益率が向上しても、売上高も利益額も低下する。

そこでどうにかして客数を増やそうと、購買をひたすら煽るような広告表現に偏ってしまったり、レスポンスのための値引きや表現ギミックを乱発してしまったり、といった傾向が現れがちです。そうなるとブランドは毀損し、中期的な事業の成長性は失われていきます。

これを防ぐためにはどうするか。表現のガイドラインを定め、その範囲内で、ブランドのアイデンティティと商品力を理解、共有した上でアイデアを出して、より売れる表現を開発するためのテストを辛抱強く、くり返す必要があります。

CLVにとどまらない顧客のとらえ方

ダイレクトマーケティングのCRMではRFM(Recency、Frequency、Monetary)の各指標やデモグラフィック属性、購買商品などのデータを分析して顧客との関係を測り、将来のCLV(顧客生涯価値)を定量的に推計してきました。ただ、これだけは顧客の意識のありようを把握できず、どういうコンテンツが継続購買に有効なのか、リテンション開発の方針が導出しにくいという問題があります。

そこでブランドと顧客のエンゲージメントのありようを計測するために最近は、[図表2]のようなブランドコミットメント指標(BCI)テストが活用されます。このグラフは二つのスキンケアブランドA、Bの利用者に、「ブランドA/Bを応援したい」など各利用ブランドに対する意識を取得したデータの一部を示しています。これにより、利用者側から見たブランドのパーソナリティが把握できますし、顧客区分ごとの意識項目を使って、CLVほかの定量指標を目的変数とした分析も可能です。

図表2 ブランドコミットメント指標(一部)

2019, 岩永

CRMやリテンション施策は、これまでにダイレクトマーケティング事業において膨大な実践がなされていますが、ブランドコミットメントについての検証と、実践へのフィードバックはまだ取り組んでいく余地が大いにあります。この点に、これからのダイレクトマーケティングの可能性のひとつがあると考えています。

価格訴求に頼らず購買継続を促すには

ダイレクトマーケティングの事業では、さまざまな非価格の継続促進施策が投入されています。代表的なツールでは、個人名によるお礼状の同送や、誕生日お祝いメールなど。いずれも知人に対して送るようなホスピタリティのある文面の開発が必須です …

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