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DM AWARD(PR)

1通のDMで、人の感情をいかに動かすことができるか

小西利行

広告にとどまらず、商品・店舗・CI 開発まで幅広い領域のコミュニケーションを手がけるクリエイティブディレクター小西利行さんはどんな仕事であろうと、人の感情に触れることを大事にしている。本年度全日本DM大賞の審査員も務める小西さんが考えるDMの「手触り」とは?

小西利行(こにし・としゆき)
POOL inc. CEO/CREATIVE DIRECTOR/ファウンダー。クリエイティブ・ディレクション、コピーライティング、WEB&インタラクティブコミュニケーション開発、また、都市開発や施設開発も手がける。主な仕事に、サントリー「伊右衛門」「ザ・プレミアム・モルツ」、吉野家、トヨタ自動車など。本年度全日本DM大賞の審査員を務める。

クリエイティブの自由度が高い紙メディア

誰もがスマホを手にする時代。紙メディアの存続を危ぶむ声もありますが、DMに関して言えば、紙であることの優位性はいまも、これからも十分にあると思っています。確かにスマホは映像を見ることができるし、さまざまなデジタルツールも使える便利なメディアですが、どれもあのサイズの中での話。クリエイティブの自由度から言えば、紙のDMのほうがはるかに高いと思います。

紙の場合、極端なことを言えば、ものすごく大きなものも、ユニークな造形もつくれます。そして何よりも手にしたときにワクワク感や期待感、つまり情緒があります。そこがスマホと大きく違うところ。そういう情緒との出会いをつくることができ、そのDMと出会ったときの驚きや期待感をいかに増幅させるかは、クリエイティブの力にかかっています。

6年ほど前、友人である作家の伊坂幸太郎さんが『バイバイブラックバード』という「ゆうびん小説」を発表しました。その名の通り、この小説は抽選で選ばれた読者に1話ずつ郵便で送られたもの。その話をきいたとき、伊坂さんの小説が家に届くと考えただけで、ものすごくワクワクしたし、伊坂さん自身も「楽しそうだから、引き受けた」とおっしゃっていました。郵便を介する、つまりは人が届けてくれたものを手にすることで心に触れる何かがある。そして、それはデジタルには絶対になし得ないものです。

将来的には郵便のシステムもいま以上にデジタル化されると思いますが、その裏側にどんなにテクノロジーが使われていたとしても、人を介して手元に届くという、手触りのようなものは絶対に失われることがないと思っています。

以前、クリスマスシーズンにPLAZAの店頭で「I WRAP♥YOU」というイベントを企画しました。これは店内のブースで撮影した写真、あるいは持ち込みの写真を使って、世界にひとつだけのプレゼント用ラッピングペーパーを店頭でつくるというイベント。従来、PLAZAのようなお店は商品を売るところまでが仕事の領域でしたが、この企画ではその先、お客さまがプレゼントを「渡す喜び」「受け取る喜び」までをつくることができました。

イベントが始まると、子どもや孫の写真はもちろん、ペットの写真を持ってくる人も。それで包んだプレゼントを受け取ると、中身とは別にもう一つのプレゼントを受け取ったような気持ちになり、感激のあまり泣いてしまった人もいたほど。これまでに店頭ではなし得なかったコミュニケーションが生まれました。

「あの人にこれを送ったら喜んでくれるだろう」という気持ちを素直に形にした企画ですが、届け方はもちろん、その先で手にする人の気持ちがどう動くか、そこの部分までをしっかりと考えた結果、盛況のうちに終了することができました。

2015年にPLAZAで実施した「I WRAP YOU」。家族の写真などを店頭にもっていくとプレゼント用のラッピングペーパーにし、プレゼントを包むという企画で人気を集めた。期間中には桐島ローランドさんによる撮影会も実施された。

一風堂では、海苔にメッセージを入れて来店者に提供。この海苔がきっかけとなり、店員と来店者とのコミュニケーションの時間が増えたという。そして、ほとんどの人がラーメンも含めて写真を撮り、SNSにアップ。好評で、バレンタインデー、母の日、父の日と続いている。

心が感じて動くものはすべて「感動」である

先日、タクシーに乗ったときに、思わず目を留めてしまった広告があります。「忘れ物は乗務員へ」と書かれたラックに刺さっていたのは、お札がはみ出た封筒。まさか本当にお金が入っているとは思わなかったけれど、えっと驚き、思わず手に取ってしまいました。実際には端の部分だけお札風の印刷がしてあるパンフレットだったのですが、まさにタクシーアドならではの表現。見た人の感情を間違いなく動かしている。そのことを十分に計算してつくられていたものでした。

広告に限らず、映画でも、テレビでも、表現にかかわるものには、よく「感動」という言葉が使われます。「感動」という言葉を聞くと、多くの人はジブリの映画のように涙するものを思い浮かべるでしょう。でも、その言葉通りに受け止めるのであれば、「感じて動けばいい」。だから、何かを見たときに怒ることも「感動」だし、逆に笑い出すことも「感動」。痛い、つらい、苦い…というように、自分の感情が刺激されて動いたことはすべて「感動」であると、僕は思っています。僕たちのようなコミュニケーションの仕事をする人にとって、そういう感情の振れ幅をいかに広げられるか、人の感情にいかに直撃できるかは、常に大きなテーマです。このタクシーアドを見てドキッとして心を動かされ、手に取った人がいるならば、これもまた「感動」と言えると思います。

「感動」という言葉同様に、僕は「手触り」という言葉を触感など感覚的なことだけではなく、その人の気持ちが揺さぶられるものという意味で使っています。例えば氷の入ったコップ。見るからに冷たいのに、持ったときにものすごく熱かったら驚きますよね。そういう驚きと体験は、思わず人に言いたくなるし、心に残る。「手触り」という言葉は、例えば紙の質感や重さなどを指すことがほとんどですが、僕にとっては体験や実感に近いんです。

いま一緒にお仕事をしている一風堂でも、海苔にバレンタインデーや父の日・母の日のメッセージを入れたり、強烈な餃子味の飴を割引クーポンにしたり、チャレンジングな企画を続けています。餃子味の飴はかなり強烈な味だったので、食べた人がSNSにアップしてくれて話題になりました。例え強烈なものであっても、体験として面白ければ人は喜ぶし、気持ちが動く。一風堂の仕事では、そのことを強く実感しています。

「全日本DM大賞」の「DM」はダイレクトメールのことですが、同時にダイレクトコミュニケーションでもあります。DMもフォーマット化されているところもありますが、メッセージを伝えるだけではなく、それを介してどうコミュニケーションするか。その部分までもっと考えてみると、これまでとは違うクリエイティブやアプローチが生まれてくるのではないでしょうか。

「食べられる餃子無料クーポン」として、オリジナルの餃子飴を制作。

    「第31回全日本DM大賞」応募締切近づく

    戦略性・クリエイティブ・実施効果などにおいて、優れたDMを表彰する「第31回全日本DM大賞」がDM作品を募集中。応募締切は10月31日。オフィシャルサイト(https://www.dm-award.jp)から応募を受け付けている

    問い合わせ

    全日本DM 大賞事務局(株式会社宣伝会議内)

    TEL 03-3475-7668
    E-mail info@dm-award.jp
    https://www.dm-award.jp

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