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デザイン会社進化論

10年目を迎えたライゾマが目指すこれからの組織の形とは

齋藤精一

室井淳司さんの対談4回目の相手は、ライゾマティクスの齋藤精一さん。10年目を迎え、3つの部門を新たに設立した背景にはどんな考えがあるのか。また、お互いの原点である「建築」について、2人はどのように考えているのかを話してもらった。

齋藤精一氏
Photo : parade inc./amanagroup for BRAIN

「リサーチ」「アーキテクチャ」「デザイン」3部門を設立した理由

室井▶ 僕と学部は違いますが、齋藤さんが東京理科大学建築学科出身だと知って驚きました。僕は卒業後博報堂に入りましたが、齋藤さんは卒業後コロンビア大学で学び、その後NYで3年ほど広告の仕事をしてからライゾマティクス(以下 ライゾマ)を立ち上げられていますね。立ち上げ当初は純粋な広告の仕事もしていたんですか?

齋藤▶ はい。グラフィックや映像CM、デジタルキャンペーンからWebサイトまで“ザ・広告”の仕事をしていました。外部企業と組むR&Dの仕事も設立当時からあったんですが、当時は秘密保持契約が厳しく公言できる状況ではなくて。最近になって、一般の人が開発者やどのような信念でつくられたかという根っこの部分に関心を持つようになり、その辺りはだいぶ変わりました。JINSのウェアラブルアイウェア「JINS MEME」などは、R&Dから広告物まで一気通貫して手がけている例です。ライゾマの社名はフランス語のrhizome(根茎)から来ていますが、今は根っこに戻っていく時代なのかもしれません。そういう意味では僕も建築にいつか戻りたいと考えていて、設立10 周年を迎えた今年、ライゾマに「アーキテクチャ部門」をつくりました。広告の世界に進んだ自分にはもう建築の仕事をする機会もないかと思っていたのですが、最近になって都市開発やプロジェクションマッピングの依頼が多数寄せられるようになり、思いもよらない方向から建築に戻っているなと感じます。

室井▶ アーキテクチャ部門の他にも「リサーチ部門」「デザイン部門」を同時に立ち上げました。その狙いは何ですか?

齋藤▶ ライゾマにはプログラムやデバイス、デザインなど、さまざま分野のプロが集まっています。以前のライゾマはいい意味でも悪い意味でもブラックボックスで、Webも商品開発も建築も何でも頼めると思われていましたが、一方で何のプロフェッショナルかわかりづらかった。そこで、顔を分けてあげれば僕らもクライアントもわかりやすくなると考え、「リサーチ」「アーキテクチャ」「デザイン」の3部門に分けることにしたんです。こうしたことで、「建築をするならこれも頼めないか」、あるいは「ライゾマにこれを頼むのは違うな」という風に理解が進みました。

室井▶ 各部門の役割を教えてください。

齋藤▶ リサーチは最もライゾマを体現しているチームで、プログラマ中心のチームです。この先どんな技術や表現があり、どの技術と何を組み合わせると未体験のものができるかを探求しています。ライゾマが今どこに興味を持っているかはリサーチを見るとわかりやすいです。デザインが一番広く、R&D、プロジェクトマネジメント、広告、UXまで包括して手がけます。ソリューション開発やクライアントの問題解決をするチームだと言えます。マーケティング手法をとりながらテクノロジーでアウトプットする「テックマーケティング部門」も考えたんですが、社内での議論を経てデザイン部門に統合されました。これらの部門は、半分は自分たちがやりたいこと、半分はニーズを因数分解してつくっています。

室井▶ あくまでやりたいことがベースにあるのですね。

齋藤▶ そうです。アーキテクチャはファサードや空間系インスタレーションなども手がけていますが、実務で多いのは都市開発です。エリア開発など、デベロッパーのコンサル案件を手がけています。僕はよく冗談で「ライゾマは魔法使い枠」と言うんです。「ライゾマが来ると何かすごいエントランスを作ってくれるんじゃないか」「見たことのないプロジェクションマッピングやインスタレーションをつくってくれるんじゃないか」などと思われている部分があるので。でも、僕たちは単なる設計をしたいわけではないではないんです。例えば商業施設の提案があったら、「この商業施設には300 坪もいるんですか? それよりも25坪に小分けして、マイナーブランドでスタートアップしたほうが面白いんじゃないですか?」といった運営の話から始めます。よくも悪くも「そんなことを提案されるの?」と拍子抜けされるわけですが …

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