多くの人がスマートフォンを活用しデジタル上で情報を収集している現在。消費者の“買い物”に対して、デジタル広告などのオンライン施策はどのような効果を発揮しているのか。中央大学の寺本高教授が海外事例や調査データを交えながら説明する。
Point
☑モバイル・マーケティングで重要なのは、受け入れやすい“タイミング”の見極め。
☑企業の組織的に分断されていた店内・店外のマーケティングを連携させる。
「買い物に行こう」とする時しか小売のアプリは使っていない?
モバイル・マーケティングの中でも、特にO2O(Online to Offline)というデジタル広告で消費者にアプローチし、店舗での購買を促すマーケティングの市場が拡大しています。実際にサイバーエージェントは、2018年には約200億円であった市場規模が2024年には約12倍に拡大すると推計しています※1。
※1 サイバーエージェント(2019), 国内O2O広告市場規模調査, サイバーエージェントプレスリリース, 2019年6月3日。
市場拡大が大きく期待されるモバイル・マーケティングは、「消費者との接点」という点で多くの可能性があります。例えば、小売店頭で発券されるクーポンを挙げてみると、クーポンの発行対象となる顧客は「いつ、何を買ったか?」という購買履歴を中心に設定されます。また、発券場所、つまり顧客との接点も店頭に限られてしまいます。
これに対し、モバイル型のクーポンであれば、購買履歴だけでなく、モバイルを保持したり操作したりする行動履歴とのセットによって、店頭に限らず様々な場面でクーポンの発行対象である顧客との接点を得られます。
しかし、モバイル・マーケティングの受け手である消費者側の立場からすると、懸念点がいくつかあります。野村総合研究所が実施したデジタル広告に対する消費者の考え方に関する調査では71%の回答者が、「デジタル広告における商品情報が多くて困る・やや困る」とし、53%の回答者が「利便性が高まるメリットがあっても個人情報を登録したくない・ややしたくない」としています※2。
※2 野村総合研究所(2018), 生活者1万人アンケート(8回目)にみる日本人の価値観・消費行動の変化-情報端末利用の個人化が進み、「背中合わせの家族」が増加-, ナレッジ・インサイト レポート, 2018年11月6日。
この結果は、日本の市場では、モバイル・マーケティングに対する消費者の情報疲労や辟易さ、情報を利用されることに対する警戒感があることを示しています。
では、消費者はモバイル・マーケティングをいつ受け入れているのでしょうか?あくまで一例ですが、流通経済研究所が実施した、小売業が展開しているモバイルアプリの利用状況に関する調査では、「回答者平均で約3種類の小売アプリをインストールしている」ことや「最も頻繁に使うスーパーマーケットのアプリの具体的な使用頻度として、約4割の人が週2回以上である」ことが明らかになっています※3。
※3 流通経済研究所(2018, 2019)「小売業のスマートフォンアプリの活用に向けた研究」の回答データを追加集計,流研SMD共同研究機構(集計協力:渡邊秀介研究員)
これらの結果は、「消費者は複数の小売アプリを利用しているし、使っている人は来店頻度と同様のペースで利用している」ことを示唆しています。
つまり、小売アプリを定期的に使っている消費者は、「買い物に行こう」というタイミングで複数のアプリを使い分けています。これは逆に言うと、消費者が「買い物に行こう」と思っていないタイミングで様々な企業から情報を受けても響かずにスルーされるだけかもしれません。このような実態を見ると、ただやみくもに消費者にアプローチするのではなく、消費者が受け入れてくれやすい、適時適切な“タイミング”にフィットするような仕掛けが重要ではないでしょうか。
時間、位置、コンテクストでタイミングを見極める
では、モバイル・マーケティングが響く“タイミング”をどのように捉えれば良いのでしょうか?ここではTongらが提唱するフレームワークを紹介します※4。Tongらはモバイル・マーケティング・ミックスとして“6P”を提示し、“6P”のミックスを駆使することで、顧客の維持・離脱や顧客エンゲージメントなどの消費者反応の成果を得ていくべきことを提唱しています【図表1】。