脱「ベッドタウン」を目指し、人のつながり創出や、まちのファンを増やすための働きかけを行う生駒市。こうしたシティプロモーション活動が生まれるには、これまでの情報発信からの発想の転換が必要だった。
2022年、奈良県生駒市の市民PRチーム「いこまち宣伝部」がグッドデザイン賞を受賞しました。審査員の皆さんから「ひとりひとりの好奇心や感受性を活かした広報活動は、部員自身にとっても楽しみながらシビックプライドが醸成される仕組みとなっている」と評価を受けた取り組みは、2015年から続く本市シティプロモーション施策の中核事業です。
市民の皆さんが市の魅力を見つけてSNSで発信する宣伝部の活動が象徴するように、私たちは「まちのファンづくり」をキーワードに、生駒で暮らす人々の関係性をデザインし、「暮らす価値のあるまち」という都市ブランドをつくるという方針でシティプロモーションを推進しています。しかし、ここに至るまでの道のりは試行錯誤の連続でした。
本連載では、1回目はプロモーションの方向性が決まるまでのことを、2回目以降は具体的な事業のプロセスや成果等について紹介します。
子育て環境に定評の住宅都市
生駒市は、奈良県の北西部に位置する住宅都市です。大阪難波まで電車で約20分というアクセスの良さと、市域を生駒山や矢田丘陵に囲まれた緑豊かな環境を活かし、1960年代から大規模な新興住宅地が開発され発展を遂げました。市制施行の約50年前と比べると人口規模は約3倍になり、県外就業率は全国第4位とまさに大阪のベッドタウンです。子育て・教育環境の良さには定評があり、SDGs未来都市にも選定されています。
私自身は生駒生まれ生駒育ちでありながら、中学から大学までの10年間は県外で学び、大阪に本店のある百貨店で11年間働くという生駒市民の一般的なライフスタイルを体現していました。市役所の広報担当を募集する記事が目に留まり、「退屈で一方的な行政のコミュニケーションを変える仕事はおもしろそう」と中途採用で入庁したのは、2008年10月のことです。
2013年、「シティプロモーションに取り組みましょう」と当時の市長に指示を受けました。ちょうど市の人口がピークを迎えた時から始まったのは、大型開発が落ち着いて、右肩上がりだった人口が横ばいになり、急激な少子高齢化を迎えることが予想されていたからなのかもしれません。サラリーマン世帯は「都心で働き、都心で暮らす」というライフスタイルが主流になってきており、「住む」だけのベッドタウンは選ばれなくなるというトレンドも何となく感じていました。
「通過するまち」どう訴求?
しかし、自治体プロモーションといえば「観光プロモーション」が主流の時代。ゆるキャラやB級グルメといったツールを使った「まちおこし」に取り組んだり...