日本唯一の広報・IR・リスクの専門メディア

           

ウェブリスク24時

失敗が生むのは炎上かそれとも?

鶴野充茂(ビーンスター 代表取締役)

ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。

イラスト/たむらかずみ

失敗が生むのは炎上かそれとも?
モンテディオ山形が予約販売した記念ユニフォームに、首回りの開きが小さく頭が入らない不具合があり、モンテディオ山形は謝罪。すると予期せぬ行動が連鎖的に広がった。

モンテディオ山形が5月に予約販売を開始した夏の記念ユニフォームは、2万円前後の商品だった。告知サイト上では7月~9月に開催される4試合で選手が着用予定。

商品自体は告知通り7月半ばに購入者に届けられたが、直後から「頭が入らない」などという声が上がり始めた。クラブは、「襟元の縫い位置が高く、首回りの開きが小さいため、着脱に不自由があるという事象を確認しています」と説明して、謝罪。対応として全数を改めて用意することや、商品発送が8月中旬を予定していることを伝えた。予定されている4試合のうちの3試合が終わったタイミングを示していた。

一方、すでに届いている商品で着用に支障がある場合、「良品の到着まで修繕などの対応を行う」とした。この後、ネット上では頭の通らない記念ユニフォームをかぶる写真を投稿するサポーターが続出。その様子が、ウルトラマンに出てくる怪獣ジャミラに似ているとして、「#モンテディオジャミラ部」なるハッシュタグが拡散。またスタジアムでは「頭出ずとも結果出せ」といった応援旗も目に入るように。

炎上してもおかしくなかった

夏の地元ゲーム4試合で着用する2万円前後の記念ユニフォームを購入するサポーターの期待値は高い。約700人が購入していたという。その期待が「裏切られた」となると、怒りの感情が湧き上がってもおかしくはない。報道によると、サポーター数人からユニフォームが入らないという連絡を受けた翌日、クラブは購入者全員にメール通知し、メディア向け告知。その素早い対応が評価されたと報じる向きも。

しかしネット上の動きを追うと、謝罪の前段階ですでに「#モンテディオジャミラ部」は生まれていたことが確認できる。迅速な謝罪と対応で面白がってもらえるムードが加速したのは疑いないが、それはあくまで日ごろのクラブとサポーターの間ですでに良い関係があってのことだと考えられそうだ。

距離の近さが表れる時

サポーターと一体どんな関係づくりをしているのかと、モンテディオ山形の公式Twitterを見ると、まず高頻度で更新されていることに気づく。1日平均12、13投稿、多い日には40~50件、最多は1日122件。中身は試合やイベント、グッズ情報に加え、曜日ごとのテーマ別情報の紹介。練習の様子、選手のインタビュー動画や選手の誕生日も伝える。試合でサポーターの様子を伝えるものや、スポンサー関連情報もある。

プロフィール欄には、「みなさんとチームとの距離を近づけるコミュニケーションメディアとしてツイートしています」とある。「距離を近づける」というのは、お互いを良く知るということ。サポーターがクラブを知るのと同時に、クラブがサポーターを良く知るということでもある。今回のような問題が発生した時に、その距離がはっきり表れるということだろう。

社会構想大学院大学 客員教授 ビーンスター 代表取締役
鶴野充茂(つるの・みつしげ)

社会構想大学院大学客員教授。日本広報学会 常任理事。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/

ウェブリスク24時の記事一覧

ウェブリスク24時の記事一覧をみる

おすすめの連載

特集・連載一覧をみる
広報会議Topへ戻る

無料で読める「本日の記事」を
メールでお届けします。

メールマガジンに登録する