今回は、仮にテレワーク中の社員のパソコンが紛失し、個人情報が漏えいした、という設定でクライシス発生時の広報の動きをシミュレーションしてみよう。
監修/佐々木政幸 アズソリューションズ 代表取締役社長
*本企画は2020年1月号に掲載した記事の改訂版です。
事件の概要
コロナのまん延防止のため、在宅勤務の推進が進んだ昨今。大手ホテル会社のA社も全社的なテレワークの導入に踏み切った。しかし、急な導入で情報セキュリティの確保もままならなかった。そんなある日、人事から広報に1本の電話が。「社員の1人がテレワーク中に自宅近くのカフェで仕事をしていたところ、目を離した隙に社用パソコンがなくなっていたそうだ⋯⋯。」
実はそのパソコン、クレジット番号はじめ顧客の個人情報が入っており、すでに何人かが「口座から不正に引き出された」と被害を訴えている。被害総額は現時点で500万円に上るという──。
STEP1 初動対応
発覚~2・3時間以内
何が起こっている?対策会議で状況把握
何らかの問題が発覚した場合、危機管理本部や対策本部などを組んで対応方針を決める。特にSNSでの拡散スピードは速いので、事案発生(または把握)後2~3時間以内が分かれ目となる。情報の収集、整理までを一気に行いたい。
初動対応のフロー
❶広報担当内の責任者(部長)と危機管理担当者を中心に対策本部を設置
❷何が起きたのか、事実関係を正確に把握
❸2~3時間以内で全社の対応方針を決定
POINT
対策本部長を中心に状況把握に努め、被害者や取引先、株主、社員などそれぞれの対応を決定する。即断即決が原則。
❹対策本部の役割分担を決める
POINT
広報だけでなく他部署から応援を募る場合もある。そのため、あらかじめ以下のように役割を決めておくと良い。
情報収集班➡すべての情報を迅速に集める
情報収約班➡情報収集班が集めた情報を時系列、対象者、事象内容などに分けていく
情報整理班➡集約された情報をもとに想定問答(Q&A)を作成また、問題が発覚した部署と連携した役割分担にしておくと、なお良い。
❺マスコミ用コメントを準備
POINT
マスコミからはコメントを必ず求められる。平時にクライシスが起きることを想定し事前に作成しておくこと。その際、(A)謝罪すべき案件か(B)単なる説明で留めるのか、をしっかり区別する。
❻会見はオンラインかリアルか
POINT
会見を開くと決まったら、次はオンラインにするのか、リアルにするのかを決める。今では7~8割がリアルな会見に戻った印象だが、このコロナ禍では密を避けるためにもオンラインが良いときもある。オンライン会見ならではの注意点もある。心してかかろう。
STEP2 電話対応
発生2・3時間後~半日後
マスコミから問い合わせが殺到
よく電話口で記者に対して「会見ですべてお話ししますので」という常套句が使われるが、広報が答えることは会社の発言そのもの。電話であっても「逃げ」と思われる姿勢を見せてはいけない。
チェックリスト
⃞企業名や対応者名を必ず相手(記者)に告げる
⃞「言っていいこと」「言ってはいけないこと」を明確に整理しておく
POINT
前段の情報整理班がまとめた内容をもとに精査しよう。
⃞分からないことは「分からない」と回答する
POINT
「~だと思います」という憶測を含む回答は危険。その場しのぎで回答せず、確認して折り返す時間を決めて一旦電話を切ろう。約束した時間は必ず守りたい。
⃞言えないことは、「言えない」とはっきり言う
POINT
ただし、言えない理由をしっかりと説明する。
⃞電話は必ずペアで
POINT
電話対応者を1人きりにしてはいけない。回答できずにうろたえていないかを、隣で誰かがサポートしていないと、万が一問題が起きたとき、対応した個人に責任を押し付けてしまいがちに。
⃞状況をしっかりと理解し、自分の言葉で回答する
POINT
「想定問答」が手元にあると心の支えになるが、棒読みはNG。声に抑揚がなくなり、電話先の記者に見透かされてしまう。求められている情報と開示できる内容を解釈し、自分の言葉で話すこと。
STEP3 資料作成
電話対応中~半日後
会見まで時間がない!何を発表する?
発表用リリースの作成時間は30分だ。電話対応中から作成担当者を決めて取りかかりたい。「誰に向けた資料なのか」「何のための資料なのか」「被害者の立場に立った内容になっているか」の3点がポイントだ。
チェックリスト
⃞資料の冒頭で謝罪の文言は記載しているか
⃞事案の内容は簡潔に記載しているか
⃞時系列は分かりやすいか
⃞原因について明確に記載しているか
⃞応急措置策(当面の措置)は記載しているか
POINT
被害者やマスコミが最も知りたい部分だ。抜けのないように。
⃞「(社員教育、品質管理徹底を行うなど)再発防止策を早急に策定する」旨の文言は記載しているか
POINT
すでに具体的な再発防止策まで検討されている場合は、その内容も記載すること。なお、「二度とこのようなことが起きないよう⋯⋯」という表現は使わないこと。被害者や顧客にとって大切なのは今すぐに行われる「応急処置」だ。
⃞問い合わせ先は記載しているか
⃞会社概要は記載しているか
STEP4 記者会見
発生後半日後、遅くとも12時間後まで
社会部記者が押し寄せてきた
会見で最も重要なのは、「マスコミの向こう側にいる被害者」を意識すること。会見が始まると広報は口出しできないので、「なぜ謝罪するのか」をしっかり会見者と共有してから臨もう。座り方、話し方、態度も広報がきちんとチェックを...