マーケティング活動の一環としてPRを行う「マーケティングPR」。筆者の実務経験をもとに、基本と実践のポイントを解説します。
企業のコミュニケーション部門の方から、自社の広報戦略について助言をお願いしたいとの依頼をいただくことがある。この際に「社会貢献」を強く意識した顧客コミュニケーションを望むケースが最近特に増えてきたと実感する。しかし、従来のような「企業利益の一部を社会に還元したい」というような、創業者や経営者の経営理念に基づく「善意」によるものが多いかというと必ずしもそうではない。
多くの場合が「新しい価値をいかに社会と共に創るか」という「共創」を重視する視点へと経営者の考え方は変化している。これまでのような「利益還元」を目的とした社会への貢献とは異なり、本業の中核となる事業として社会貢献を位置づけている。このため、社会貢献と自社のマーケティング活動との新しい形の融合を求められる。
「持続可能な社会」を目指す活動が本格化
もっとも、経営者やマーケティングリーダーたちがこのように考える背景をひも解くと、大きく2つのタイプに分けることができる。
ひとつは、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)など、国際的なサステナビリティ意識の高まりから、「自社もこういった取り組みを行わないといけないのではないか」という不安感が後押しするケースだ。
SDGsとは2015年9月の国連総会で採択され、193の加盟国が2030年までの15年間で達成するよう定めた包括的な目標のことである。SDGsに挙げられている目標の一つひとつはそれほど目新しいものではない。しかし、これまで以上に具体的な数値目標が設定されている点が大きな特徴だ。特に「継続したモニタリング」の実施が定められた点には大きな進歩がみられる。なお、「SDGsを企業報告に統合するための実践ガイド」の日本語版が地球環境戦略研究機関(IGES)のサイトから無料でダウンロードできる。ぜひご一読いただきたい。
また、かつてのような貧困国への援助を促すことを目的とした人道支援の視点ばかりではない。先進国も含めた世界全体が「持続可能な社会」を目指していくため、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)など、環境や社会に配慮する企業への投資(ESG投資)を推進していこうという動きもみられる。
2015年に「パリ協定」が採択されて以降は、国際組織や政府機関のような公的な団体ばかりでなく、金融業界をはじめとする民間セクターでも、「持続可能な社会」を目指す活動はより本格化し具体的なものとなっている。「ESGに配慮していない会社には投資しない」というような動きもすでにみられる。化石燃料による売上が著しく高い企業からは投資家が投資を引き上げるケースもすでに出てきた。
私の経験上、こうした動きに敏感なのはまずはグローバル企業だ。特に海外での売上比率が高い場合は、一連の世界的な潮流に取り残されることによるビジネス上のリスクも大きい。すでに何らかの対応を考えている企業もある。また対策を講じるばかりでなく、新しい時代の自社のビジネスのあり方として、積極的にこうした潮流を経営に活かしている先進企業もある。
例えば味の素グループでは、事業を通じて解決すべき「21世紀の人類社会の課題」として、「地球持続性」「食資源」「健康なこころとからだ」の3つを掲げ、それらの課題解決を、社会と共存・発展するための前提条件と位置づけている。そして、SDGsについても中期経営計画と整合させ、外部との連携・協働の「ハブ」となってより大きな課題解決につながる原動力を生み出そうとしている。
では、我々はこうした世界的な潮流に対してどのような姿勢で臨んでいけばよいだろうか。もしも現在すでに自社が行っている社会的活動があれば、一度整理して再定義していく必要がある。具体的には図1のとおりだ。この事業の再定義を行う過程で特にコミュニケーション部門は、具体的に企業としてどのようなメッセージを今後も継続的に発信していけばよいか整理していかなくてはならない(図2)。
❶ その社会貢献事業は何のために行っているのか(目的)
❷ 自社の経営理念とどういう形でリンクしているのか(経営理念との整合性)
❸ 事業として十分な効果をあげているのか
❹ 効率的に運用されているのか
❺ 自社の本業の中核となる事業(技術や人材)を活かしているか
❻ 世間に幅広く知られ、自社の評判(レピュテーション)を十分に高めているか
❼ 事業の継続性はあるか
Step1
世界的な理念を共有する
➡これまでの個々の社会活動の整理と再定義
➡目標数値の決定
➡社内基準の遵守
➡SDGsの目標と自社の事業活動とを紐付けることで総合的に実績評価を行う
*リーディングカンパニーの場合は国際基準や業界標準よりも、あえて高い目標数値を自社基準で設定する。
Step2
高い目標を遵守することは、当然、自社製品のコスト増にもつながる
➡単なる「コストの増加」ではなく「新しく付加価値」を生み出す事業として捉える
➡製品ブランディングと顧客への訴求方法を見直す
Step3
新しい企業コミュニケーションの確立
➡結果として他社製品との差別優位性に寄与する
➡新たな顧客コミュニケーションによる顧客層の拡大実績評価を行う …