「マーケティング発想のPR」を実践している事例のインタビューを隔月でお届けする本連載。今回は2011年にクラウドファンディング事業を立ち上げたREADYFOR代表の米良はるかさんが登場します。
闘病で生まれた非連続的なエネルギー
片岡:まず、本題である事業の話の前に。各種メディアでも取り上げられ、ご自身でもブログなどで発信されていましたが……2017年、30代に入る節目の年に闘病生活をされていたんですよね。
米良:はい。血液がんのひとつ、悪性リンパ腫でした。2017年7月から今年1月まで治療に専念するため完全に現場を離れていたんです。このインタビューも、元々は去年の7月に予定していたんですよね。取材の直前に病気が発覚してしまって。片岡さんにもご心配をおかけしました。
片岡:とんでもありません。半年で現場に復帰されて、こうしてお会いできて本当によかったです。企業にとって、経営者が病に倒れるという事態はある種の危機だと思います。闘病中は、ご自身が不在になることによる社内外への影響についてどのように考えていましたか。
米良:病気を公表したのは2017年10月でしたが、幸いにもネガティブな反応はなく、多くの方から「これもある種のターニングポイントだから、経営者として一回り大きくなるチャンスだね」といったコメントやメッセージをいただきました。
ただ、会社を引っ張ってきた私が休むことで、世の中からREADYFORという会社に対する期待値が下がることがすごく気になりました。ですから、社内外に向けてREADYFORは盤石であるということをしっかり伝えることが企業広報の視点からも重要だったと思います。
片岡:公表の前後で一番変わったことは何ですか。
米良:本当にポジティブな方向に振れてくれたので、救われました。会社に対しても「米良さんがいなくてもちゃんと伸びているっていいね!」という評価をしていただけましたし。私に対しても「経営者は大変なことがあってナンボ。これからどんな挑戦をしていくの?楽しみだね」といった声もいただいて。復帰してからも、「今なら何かやってくれそう」という期待とともに皆さんが協力してくれています。
実際、日常のなかで企業がダイナミックに「変わる」って相当大変なことですよね。何かスイッチを切り替えるきっかけがないと、変革は起こしにくい。だから私は闘病という転機が訪れたことに対してポジティブな気持ちを持つことにしたんです。以前のように平穏な日々だったら、何の理由もなく私が半年も不在になるきっかけはなかったと思うので。
もちろん辛い経験ではありましたが、経営者としては、会社が深刻な危機に陥ることなく非連続的な成長を描くという方に舵を切れたのはよかったと思っています。
片岡:そのマインドがすごい。米良さん、きっと昔から自分のこと「運がいい」と思っているタイプですよね(笑)。
米良:そうかもしれないです(笑)。
片岡:既存のクラウドファンディング事業が着実に成長している中で、米良さんにとってさらなる成長のために新しい事業を生み出す源は何ですか?
米良:「ビジョン」と「エネルギー」、そして「できると信じる力」でしょうか。私はこの半年間、自分がそもそも長く生きられるかどうかよく分からないというどん底も味わいました。一方で休んでいる間に、READYFORという企業が「社会の中でどう位置づけられるべきか」「未来に向けて、どのくらいのペースでどんなインパクトを与えていくべきか」を見つめ直すことができました。
その結果、「もっと早く社会の構造を変えるインパクトを起こしたい」という思いを強く持っていることに気づいたんです。私が不在の間も事業は成長していましたし、メンバーも楽しく働けていた。そう思えば、経営者としてはさらなる高みを見るべきなんじゃないかなって。だから今、エネルギーがすごく高い状態です。
社長は単一事業の「顔」ではいけない
片岡:創業時は一人ひとりが社長の考えや動き、ご家族のことまで把握していますが、人数が増えてくるとそうはいかなくなってきます。新規事業を立ち上げるとインターナル(社内)コミュニケーションの役割も必要になってきますね。
米良:そうですね。今まで私は社長というよりも、「事業責任者」としてエンジンの役割を担って走ってきたと思います …