「マーケティング発想のPR」を実践している事例のインタビューを隔月でお届けする本連載。今回はマーケティングとPRを一体化させた、ドールのバナナに関する取り組みを探ります。
「指名買い」のブランドになりたい
片岡:大滝さんのマーケターとしてのキャリアはドールのフルーツ一筋とのこと。
大滝:はい。かれこれ20年以上、バナナと向き合っています(笑)。2004年以降、日本人が一番消費しているフルーツはバナナなんですね(総務省統計局「小売物価統計調査」)。みかんやリンゴよりも多いんです。21世紀に入ってから、バナナは日本人にとっての国民食になったともいえます。
片岡:きっと日本で一番、バナナに詳しい専門家でもあるわけですね。でも、そんなに毎日バナナのことを考えていて、飽きてしまったり嫌いになったりしないんですか?(笑)。
大滝:それはないですね。毎日食べていますし、元々フルーツが大好きなので。朝はバナナとパインでスムージーをつくりますし、お昼はお弁当と一緒にフルーツを添えるのが習慣になっていますね。
片岡:ドールのバナナといえば、「完走祈願バナナ」(2010年)、「聴育バナナ」(2011年~2014年)、「バナナトロフィー」(2014年)、「ウェアラブルバナナ」(2015年)、そしてバナナ専用ペン「バナペン」(2017年~)など、「東京マラソン」と連動したユニークなキャンペーンが常に話題となっていますが、今一番"ホット"なキャンペーンは何ですか。
大滝:ちょうど4月から、「スウィーティオバナナ」のテレビCM「私のご指名」編が関西・中京エリアで始まりました。標高500メートルを超える高地で栽培しているのですが、昼夜の寒暖差によって糖度が上がるんですね。12カ月以上かけじっくり育成しているので甘さぎっしりで美味しい、日本人好みのバナナとして2000年に発売したものです。
もうひとつ、今おすすめしている商品は「極撰バナナ」。お値段は少し張りますが、2009年から高地栽培したもっちりした濃い甘さの商品として売り出しています。100種類以上の中から選び抜いた自信作です。こちらも関東、北海道、宮城、山形、福島、福岡、鹿児島エリアでCM展開しています。
片岡:これまでキャンペーンを設計する際は、どのような工夫をされてきましたか。
大滝:商品自体には新奇性は一切ありませんが、ドールの商品を「指名買い」していただくには?と常に考えていますね。その結果、ドールのファンになっていただくというゴールを描いています。
片岡:過去のキャンペーン内容から感じたのは一見、販売促進の手法でありながら、完全にブランド施策だなということです。やはり重視されているのは、「他のバナナとは違う」というイメージの訴求なのでしょうか。
大滝:おっしゃるとおりです。私たちのミッションはブランド強化にあります。「Like Dole」というお客さまには、さらに「LOVE Dole」という状態になっていただきたいですね。その施策のひとつが、2017年に発表した「バナペン」です。バナナの皮に文字を書く専用のペンですが、インクの代わりに食用酢を使いました。もちろん油性ペンで文字を書くこともできますが、口にしても安心な素材を使うという点はこだわりましたね。
書いた直後は無色透明で色がないのですが、5~10分経つと酸化して徐々に文字が浮かび上がってきます。「今日の試験がんばってね」とか、「マラソン完走してね!」とか、一言メッセージを介してバナナを通したコミュニケーションが生まれたら楽しいなと思ったんです。
企画には「一貫性のあるメッセージ」を
片岡:新しいデマンドを生み出していく手法は様々ですが、奇をてらった内容であれば一時的な話題づくりはできますよね。ただ、長年積み重ねてメッセージに一貫性を持たせないとブランディングにはならないという点が難しいと思います。
大滝:そうですね。ブランディングにおいて一番大事なものは「らしさ」であって、一貫していなくてはいけないと思っています。そういった「らしさ」を常に意識して、最終形にしていきます。
片岡:言葉だけで表現するのは難しいかもしれませんが、「ドールらしさ」って、具体的にはどういうことですか。
大滝:「楽しくてワクワクする」というイメージを大事にしています。ドールは今から150年前、ハワイでパイナップルを栽培するところから始まったブランドです。南国、トロピカルといったイメージもあるので、常に楽しさのある「らしさ」を継承していきたいと思っています。
片岡:一方で、バナナは食べ物ですから、「甘い」「おいしい」「体にいい」「健康的」といったバナナの持つ機能面を言葉で説明したくなるところです。でも一般的にインパクトがあって話題性の高いPRはもっと右脳的といいますか、ビジュアルやイメージが先行するような企画だと思うんです。そのバランスはどう捉えていますか …