日本唯一の広報・IR・リスクの専門メディア

           

広報担当者のためのマーケティング発想入門

「子ども×デジタル」の社会認識を変える NPOによる課題解決型のPR

片岡英彦(東京片岡英彦事務所 代表/企画家・コラムニスト・戦略PR事業)

「マーケティング発想のPR」を実践している事例のインタビューを隔月でお届けする本連載。今回は企業のCSR活動にも関連する、NPO法人の社会課題解決の取り組みを探りました。

(右)NPO法人CANVAS 理事長 石戸奈々子氏
(左)片岡英彦(筆者)

プログラミング教育必修化が追い風に

片岡:いただいた名刺を拝見したら、肩書が「絵本作家」で驚きました。石戸さんといえばNPO法人「CANVAS」の代表で、プログラミングに関するワークショップの企画やデジタル教育関連のお仕事のイメージが強いですが、幅広く活動されているんですね。

石戸:主な仕事は、子どもたちを対象としたデジタルとクリエイティブに関連した教育分野での活動です。設立当初から、デジタル時代の子どもたちに「創造的な学びの場」をつくるためのワークショップなどを累計3000回開催してきました。

同時に、2011年に子ども向けのデジタルコンテンツなどの開発や普及を行う「デジタルえほん」という会社を立ち上げています。「デジタルという軸を持ちながら、子どもたちの創造性を育む」という思いを込めて、名刺上の肩書は「デジタルえほん作家」としました。

片岡:デジタルだけでなく、クリエイティビティの両立が重要ということですね。プログラミング教育がこれからの時代には大切だとされていますが、まだ英語教育ほどには重要性が知られていないように思います。今でこそ2020年度に全国の小学校でプログラミング教育が必修となるという動きもあり関心が高まっていますが、当初は未知の領域を世の中に伝えていく難しさがあったのではないでしょうか。

石戸:そうですね。これからの時代を生きる子どもたちに必要な力は、世界中の多様な価値観を持つ人たちと協働して新しい価値をつくり出していく「コミュニケーション力」「創造力」だと一貫して伝え続けています。ただ、活動を始めた当初はワークショップ(体験型講座)という手法そのものが知られていませんでした。しかも「クリエイティビティ」と言うと大仰なものに聞こえるようで、誤解されてしまうことも多くありました。

デジタル教育に関しては、当時はまだ「子どもがデジタル製品を使うなんてとんでもない」という風潮もあり、デジタル教育の必要性をいかにして世の中に認知してもらい広げていくかがチャレンジでもあったと思います。

片岡さんがおっしゃるとおり、今では世の中の雰囲気が変わってきましたよね。「コミュニケーション力」と「創造力」を日本中の子どもたちにどうやって届けるかが、私たちの訴求したいポイントです。そのために立ち上げた法人や団体は、あくまでツールに過ぎません。我々の活動というよりも、どのようにして「コミュニケーション力」と「創造力」を育む場を全国に広げていくかということを意識してきました。

2日間で10万人が集まるワークショップ

片岡:プログラミングなどは実際に経験してみると楽しいけれど、自分でやってみるまではよく分からないのが普通ですよね。子どもだけでなく、教育を受けた経験のある親も少ないのでどうしたらいいか分からない。最初はどうやって、子どもたちや保護者の方々がデジタル教育に触れるきっかけをつくったのですか。

石戸:一番力を入れてきたのは、その普及にあたる部分です。例えば、「ワークショップコレクション」というイベントを普及啓発事業として開催してきました。映画、音楽、造形、デジタルなど分野は様々ですが、すべて子どもたちが自ら「つくる」ことを目的とした参加型ワークショップを一堂に集めた博覧会イベントです。

年間通じて各地で開催していますが、最大規模のイベントでは全国から150のワークショップが集まり、2日間で10万人の子どもたちが参加します。

150もワークショップがあれば、音楽で表現するのが得意な子も、数字で人に何かを伝えるのが得意な子も何らかの楽しめるプログラムに出会うことができます。子どもたちにひとつでも「自分はこれが好き」「得意」と夢中になれることを見つけてもらう。その姿を保護者の方にも見ていただく。そういうきっかけづくりになればと思い、イベントを継続しています。

片岡:石戸さんの実感として、保護者の世代の方々に「デジタル教育はこれからの時代に必要なこと」という理解は浸透してきていますか。

石戸:保護者の方にもなんとなく時代の変化を感じていただけていると思います。学校外のワークショップには教育熱心な家庭が参加することが多いので、「今までのような暗記型の学習だけではいけないのでは」という危機感もあるはず。だから学校の外に「21世紀に必要な力」として学ぶ場を求めて足を運んでいるわけなんです。

片岡:そういった高い意識をもった家庭がメインのターゲットになっているのでしょうか。

石戸:もちろん、私たちは一部の層に向けてエリート教育をしたいわけではありません。あくまでも「日本中の子どもたちすべてに新しい学びの機会を」という思いがあります。これまでに50万人の子どもたちが参加してくれていますが、日本の小中学生は約1000万人います。あらゆる環境の子どもたちに教育の機会を提供すると考えると、学校への導入も必要です。

学校の中にテクノロジーを入れて、学びの場を「知識の記憶・暗記型」から「思考・創造型」に変えていくために、2010年ごろからは教育の現場へデジタル技術を入れていくことにも取り組んでいます。

設立以来、全国で子ども向けワークショップを3000回開催し、約50万人の子どもたちが参加してきた。子ども創作活動の博覧会「ワークショップコレクション」は、2日間で10万人を動員する規模となっている(写真はこれまで東京都内で開催してきた会場の様子)。

「デジタルランドセル構想」を政策提言

片岡:2010年あたりはスマートフォンやタブレットが世の中に急速に出てきた時期です。保護者や子どもたちも個人で情報機器を持つことが当たり前になってきました …

あと61%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

お得なセットプランへの申込みはこちら

広報担当者のためのマーケティング発想入門 の記事一覧

「子ども×デジタル」の社会認識を変える NPOによる課題解決型のPR(この記事です)
BtoB専門商社の広報活動 働く場、学ぶ場の「シーン」を提供
住友生命創業110周年 企業ブランドと融合でCSV実践へ
広報会議Topへ戻る

無料で読める「本日の記事」を
メールでお届けします。

メールマガジンに登録する