森永乳業、日清食品といったナショナルクライアントのキャンペーンやプロモーションのクリエイティブディレクション/企画を手がける電通 尾上永晃さん。「リプトン ミルクティー」のリニューアル時に届いた消費者の声を受けて公開した「#667通のラブレター」をはじめ、インパクトをもたらす企画で活躍を見せる。そのアイデアはどのように生み出されているのか。手法やアプローチに迫りながら、企画にかける思いを聞いた。
尾上さんの企画
① Netflixシリーズ/「サンクチュアリ-聖域-」
作品の聖地である東京・両国駅に、巨大な力士像が横たわるOOHを展開し、国内外で話題に。
② 森永乳業 マウントレーニア/「もしも東京の真ん中に、山があったら。」
ブランド発売30周年を機に、「山のように、どんな人にとっても安心できる、やさしい存在」となることを目指して、パッケージデザインやロゴデザインを変更した企画。
「2023年は、プロモーションのほとんど全領域で結果を出すことができた、そんな1年でした」。そう語るのは、電通のプランナー/クリエイティブディレクターの尾上永晃さんだ。
メディア多様化時代における企画の基礎方程式とは?
SNSでも大きな注目を集めたNetflixシリーズ『サンクチュアリ-聖域-』のプロモーションでは、東京・両国駅に巨大な力士像が横たわる巨大なOOH(①)を企画。さらに、日清食品「カップニャードルキャンペーン」、森永乳業の「ピノゲー」など、様々な企画を担当してきた。また、森永乳業「マウントレーニア」のブランディングの一環として、商品から着想を得たお香を発売するポップアップを実施するなど、あらゆるチャネルにおいてヒット企画を生み出し続けている。
そんな尾上さんが考える、プランナーに求められるスキルとはなんだろうか。聞くと、「オリエンで投げられたどんなボールでも打ち返す力」だと話す。
また、これを実現するためには、商品の特性や生活者、そしてクライアントである企業のニーズに焦点を合わせることが欠かせないのだという。「その商品は何のために生まれたのか?」や「そもそも必要なのか?」という基本的な問いに向き合うことが重要で、企画時も誕生背景から存在意義まで、商品の価値をとことん追求するそうだ。「僕が考える企画は、商品の価値×時代性×メディア特性をかけ合わせてできています。そんなことは当然だと思われる人も多いかと思いますが、実はこの基礎的な方程式が、企画を立てるうえで最も大事なことだったりします。
メディア特性とは、その媒体にとって最も話題になるベストな表現を探ること。簡単に聞こえてしまうかもしれませんが、この中で、今最も難しいのがメディアです。例えばSNSであれば、YouTubeやXのみだった媒体は、TikTokなどにも拡大し、アルゴリズムの解き方もわからないことが多いですよね。
このように、メディアが多様化したことで、プロモーションを通じて企業活動そのものが目立つことが相対的に難しくなっています。それでも、ベースとなるこの方程式を忘れないことが、企画をするうえでは大事だと思っていますね。
それと、同時に大事にしているのは“この手があったか”という企画案を持っておくこと。僕は“こうやるとうまくいく”という計算式にはまらない、奇抜な企画案を持っておくようにしています」。
SNS時代の情報収集 実体験から自分だけの発見を
企画としてアウトプットするためには、情報のインプットも重要な要素だ。SNSが完全に普及したともいえる今、企画を仕事にする人も情報収集ツールとして活用することは当たり前になってきている。そんなSNS時代において、尾上さんは一体どのように情報をインプットしているのだろうか。「今は、大勢の人々がSNSで情報収集を行う傾向にありますよね。みんなが同じ場所で同じことを見ているから、新しい切り口を見つけることも難しくなったと感じる人もいるかもしれません。
だからこそ僕は、みんなと違う場所で情報を収集すれば自然と新しい発見があるのではないかと思っていて、自分が体験したことだけをストックするようにしています。
例えば、今働いてるビルからは、眺めのいい東京の景色が見えるのですが、ここに大きい山があればいいなと思って実現したのがマウントレーニアの『もしも東京の真ん中に、山があったら。』(②)でした。
これは山を訪れた自らの体験があって思いついたもの。メモは取らずとも、“おもしろい”と思ったその瞬間は、自然と自分の中にストックされているはずです。根本には、ラクしてうまくやりたいという気持ちがあるのかもしれないですが(笑)。自分が心動かされた体験から生まれる新たな発見も、企画の切り口として大切にしたほうが良いと思っていますね」。
「企画力はシミュレーション力」基本形からの発展を目指して
尾上さんが前述したとおり、施策としてアウトプットするチャネルの多様化している。それと並行して、プランナーの役割も細分化し、変化してきているとも考えられる。
実際に数々の事例をこなす尾上さん自身も、急速な時代の変化や先行きの不透明さに直面し、多くの企業担当者がプロモーションでの対応方法を模索していると感じるという。「今のような局面で重宝されるのは、様々な業界の事例経験を持っていて、クライアントが模索する課題や置かれている状況に対応可能な実行手段を知っているマルチプランナーだと思っています。
僕は、ゲーム『ファイナルファンタジー』シリーズが好きなのですが、そこに登場するジョブ制度に、何も持たない初期状態のジョブだったのに、全ての領域をマスターすることで最終的に一番強くなる「すっぴん」というジョブがあります。実は、優秀なプランナーもこれと同じようなことが言えると思っていて。
要は、『企画』という基本形を持ちつつ、様々なジョブ(特定の業界やカテゴリーに偏らない事例経験)を身につけることで、より多くの対応案を出せる柔軟性を持つ必要があるのではないか、と。
最終的な企画力とは、このように日々の案件や仕事の中で身につけたジョブをもとに、経験を重ねて基礎ステータスを高め、クライアントの課題感によって技や装備を付け替えることができるシミュレーション力だと思います。これって、広告やプロモーションを企画する人に限らずとも、いろんな人が無意識的にやっていることだとも言えますよね。そう考えると、今や生活者一人ひとりがプランナーである時代といっても過言ではないんじゃないでしょうか」。
最近刺激を受けた企画は?
NHK/『TAROMAN岡本太郎式特撮活劇』
©2024NHK・藤井 亮
岡本太郎の作品や言葉をモチーフにして制作された番組。
岡本太郎の作品や言葉をモチーフにして制作された番組。オリエンからの飛距離がとんでもないな、と。どんなオリエンに対してもプランナーの熱量でここまで企画することができるのだと、刺激を受けました。
2024年度の企画はどうなる?
最近増えているアニメーション起点のエンターテインメントが、これからも増えていくのでは。また、新しいエンタメを生み出すという観点では、特定の領域での世界活躍も目まぐるしい。日本から、世界的に話題になるプロモーションが生まれてもよいのでは、と思っています。