店舗を持つ企業は理解をしておくべき「ビジュアル・マーチャンダイジング(VMD)」。効果的に商品を見せ、消費者の購買意欲を引き出す仕組みのつくり方について、VMDを専門にコンサルティングを行う著者が解説する。
人間には五感があります。「味覚」「聴覚」「嗅覚」「視覚」「触覚」この5つの感覚の中で、最も外部情報をつかむ割合が多いのは「視覚」です。人間は目から入る情報、視覚に大きく頼っており、約87%もの割合を視覚が占めているのです。企業がモノ(商品)を提供する際も同様で、初めにモノ(商品)の良さをどう伝えるかが大切です。伝え方、見せ方として、VMDという手法があります。
以前まで、VMDは多くの方に「商品装飾」「ディスプレイ」と捉えられていました。飾る、目立たせることが目的と解釈されたこともありましたが、VMDはお店の売上を左右する重要な仕組みなのです。
VMDとは何かを理解する
VMDとはVisual Merchandisingの略で、文字どおり「マーチャンダイジング=商品化計画」を「ビジュアル=視覚化(目に見えるように)」することです。MD(マーチャンダイジング)とは「商品化計画」と訳し「誰に、何を、どれだけ、どうやって売るのか」を考えることです。言い換えれば、お客さまに商品を分かりやすく伝え、売りたい商品を一番効果的に見せる仕組みがVMDです。
どんなに素晴らしい商品や販促企画をつくっても、その意図がお客さまに伝わらなければ意味がありません。物的価値で物が売れた時代は終わり、今はいかにお客さまが買いたくなる「見せ方」「売り方」にするか、という情緒的価値の時代です。
コロナ禍の中で非接触が叫ばれている今、視覚的効果はますます重要になっています。
考えるべき10のフェーズ
商品は自然発生的にできるわけではありません。必ず誰かが何らかの意思をもってMDを行い、消費者の目に触れ、買われます。
VMDを組み立てる上で時系列に10のフェーズがあります。図1は、この10フェーズを表したものです。縦軸、第1フェーズ「ブランディング」から、第5フェーズ「生産計画・仕入計画」がMD(マーチャンダイジング)=商品化計画です。この計画をもとに分かりやすく伝えるための技法が、第6フェーズ「店舗コンセプト・店舗環境」から第10フェーズ「再編集」となります。フェーズ毎のプロセスが大切ですので順に解説します。
まず、最初の第1フェーズは、「ブランディング」。顧客は誰かの決定です。「どのようなお客さまを想定するか」によって、見せ方・伝え方は変わってきます。それぞれに価値の基準が違う時代。お客さまにとっての価値を知ることが最初のプロセスとなります。
第2フェーズ「展開分類」は、お客さまの関心事に合わせて商品を分類することです。例えば様々な種類の小物雑貨があったとします。たくさんある商品を一目で見やすく、分かりやすくするために、商品を何らかの基準で分類します。例えば「用途で分ける」「アイテムで分ける」「価格で分ける」など分け方、分類は様々です。図2は何も意識しないで並べた場合と、色で分けた場合の例ですが、見え方が大きく変わり選びやすくなります。
お客さまの価値が決定した後、関心度の高い順番で分類してあげることが「見やすさ・買いやすさ・選びやすさ」につながります。
ワイン売り場などの場合、同じ商品を扱っている店舗でも、商品の見え方が違う要因はこの分類方法になります。価格重視のお客さまには、1000円以下のワインなどと値段別に分類する場合もあります。ワイン通のお客さまが多い店であれば、産地や品種で分類するなど、買いやすさにつなげるために関心度の高い順番で商品を分類することが、最初のステップとなります(図3)。
第3フェーズ「定数・定量」では分類ごとに何個の商品を並べるか、どのように陳列するかを決定します。定数=与えられた面積内における適正什器台数。定量=決められた什器に出せる適正陳列量です。
定量を決定する際、第8フェーズの「フェイシング=陳列」と一緒に考えることが必要です。量感は商品の付加価値に与える大きな要素で、例を挙げると、大量に並べた商品陳列は、カジュアルなイメージや安価な印象。少量陳列の場合は高価な印象を受けるなど、人が見た時の商品イメージに与える影響が大きくなるのです。
陳列する際に大切なポイントは、商品には最も魅力的なフェイス(顔)があることです。その最も魅力的なフェイスがどこなのかを見極め、提案する内容によっても陳列方法を変えるなどの工夫が必要です。
誌面の都合もありますので、4〜6フェーズについては今回省きます。
横軸の第7フェーズから第10フェーズは...